ENo.0068　リュミドラ・カラビネル・レギナルト

きっと昔は戦車が空を飛ぶ時代はなかっただろう。

空飛ぶ戦車なんてありえない。

だが霧が晴れて見える未来の先には―――――







「相棒。…最後ぐらいちょっと言わせてくれよ」
「霧の中で出会った時の事だ」
「酒場で絡み酒した時の事だ」
「――――――路銀稼ぎは、どうだったよ」
「私は相棒として傍に居続けた。…まあ居ない時もあったが」
「…私自身が居た世界。そこは、まあこんな場所とはまるで毛色の違う世界さ」
「もしかしたら、このまま終われば。帰れる気がしている」
「だが相棒との別れともいえる。…暫しのお別れになるかは、まあいいとして」
「飲む文学って知っているか？…酒の肴だわな」
「最後くらいは私もきっちり、ケツ揃えて相棒として。相棒の隣に立ち続けられた事を誇りに思う」


「だけど。もしかしたら？」


―――――もしかしたら。


「また、会えるだろうな。酒を呑みたいと思ったなら、私はそこにいるし」
「どこにだっている。竜魔族の長になって会いに行くぐらいの野望は抱いてみせるとも」
「…ま、要は！穢れある私を咎めず接してくれたのは相棒くらいだ。人族なのにな、ははは！」

「好きだ。」

好きだ、の意。

相棒として、尊敬しているの意。
相棒として、傍に居たいという意。
そして―――――


「…ま。答えは。また、な」





自分が一番信頼のおける存在だから、ずっと一緒に本当は居たい。それなら霧など晴れなくていいって思っていた、とは―――

言えない。



空飛ぶ戦車はありえない。
だから私は覆す。

相棒への答えと、メルサリア的何かへの答えを以て
竜魔族として。最後まで誇り高く戦うとも。


私はリュミドラ・カラビネル・レギナルト。

ディヴェルの相棒であり銃手であり酒飲み仲間だ！


――――――――――
闘いの鐘の音が歪みなく鳴り響く。
空飛ぶ戦車と、竜魔族の銃手。
そして相棒の路銀稼ぎを最後まで――――
完遂する。




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以下、ハイドラ大隊が消えてから数年後に見つかった、誰かの日誌のデータ
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霧の向こうを見た。私は見た。
…そこには相棒はいなかった。相棒はきっと、また別の世界へ旅しに行ったのだろう。
それはいい。それはいいのだ。
………この世界は、緑が多い。アルラウネか？と思ったが、どうやら…
ここにいる者達は、「集められた」ようだ。世界に。
何の因果か知らんが、私はその集められた時のエネルギーに寄せられて、
こんな場所に辿り着いてしまったらしい。
少なくとも、まぁ、アレだ。
話は通じる。酒もある。
そして格納庫にいた、あの幽霊に良く似た奴もいる。
この日誌は、残存領域が存在するならその座標に向けてデータが送信される。
とはいえ、この日誌を書き終えて送信すれば、今乗っている私のハイドラのエンジンは機能を停止する。
動力がまともに機能しない。全ての武装もだ。
ここは霧とは無縁の世界。
自分の元いた世界には帰れなかったし、相棒に寄り添い続ける事も、
叶わなかったが、それでも、

今、自分が生きて緑の大地を踏んでいる事に妙な感情が湧き出ている。

……泣きそうだ。泣くか。

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【通信終了】

生き残った者達へ。
これから往く者達へ。
私たちは歌おう、今日この日があることを。
私たちは祝おう、今日この身があることを。

全ての生きとし生けるもの達へ。
健やかに、でもなく。末永く、でもなく。
ただただ只管満足な生と、満足な死が迎えられるように。

乾杯。