ENo.0122　クォーツ＝Z

そこにはただ静寂だけがあった。

人々の賑わいも、雨や風の音も、電子機器の駆動音さえも聞こえない沈黙の空間。

速乾性コンクリートで作られた冷たい灰色の壁が只々続いている。

石綿の天井に張り巡らされたパイプの網目から垂れ下がった電灯に一つだけ明かりが点いていた。

照らされた先には?せた青年の姿と鈍色の重WHが一機。

青年は冷たい金属の床に座る事を良しとせず、立ったまま武装解除されたWHをじっと見つめていた。

ここはかつて様々なWHを整備していたハンガーだったらしい。

しかし今は広大な空間にただの一機が残るのみ。

機体は何も語り掛けてこない――青年も何も語り掛けはしない。

時間が止まってしまったかの様な静寂が広がってゆく。


■　■　■　■　■


生暖かい風が吹き抜ける。

全てが霧に覆われ、朽ち果てた戦闘機械達が横たわる荒野の大地。

数多のハイドラライダー達が集うこの戦場に新たな参加者が一人。

黒い癖っ髪とやや赤みがかった黒色の瞳が目立つ無表情な青年。

彼は手術着の様な無地の白い服を羽織り、素足に灰色のサンダルのみの姿でぼんやりと立ち尽くしている。

名前はクォーツ＝Z(ツヴォー)、鈍色の重WHを駆るハイドラライダーだ。

「……」

風景を見ている訳でも無く、考え事をするのでも無く。

何かをするのではなく、ただ一点を見つめたままじっとしている。



　　　≪ビーッ！ビーッ！ビーッ！≫



突如として出撃を告げるサイレンがけたたましく鳴り響いた。

青年は一度目を瞑るって頭を振り、ゆっくりと整備ハンガーの方へ歩き出した。