ENo.0257　レコウド=グラムフォン

聞きなれている楽器の音。
それとは違う音がレコウドの頭に鳴り響いている。

ハイドラのシミュレーションコクピットでは赤のランプが回っており、
それは何かしらの良くない状態を表していることは、レコウドにも理解できた。

「ああ…」

しばらく経ってから、その音の意味に気づく。
そうか、撃墜されたのか。




*





霧都市から郊外、街から離れた場所にある小高い丘。
楽器工房『ホーンフリーク』はその上に突っ立っている。

残像領域からは霧が晴れ、今日も空には青空がある。
永遠にあると思っていたものがあっけなく消え去り、
お目に掛かれることは無いと、そう思っていたものが今はある。

この、乾いた風が草原を撫でる光景さえ、
昔は見ることができなかった。

工房の窓から澄んだ風が入る。
部屋の空気が掻きまぜられ、コーヒーの香りが部屋を舞う。

丘の上の風は非常に穏やかで気持ちが良い。
特に朝食を取る時には。

レコウドの今日の朝食はコーヒーとサンドイッチ。
工房には軽食を取れるカフェが設置されており、朝食は基本的にそこで取っている。

朝の朱が窓から部屋に差している。
レコウドはコーヒーを一杯飲んだ。

清々しい朝の気配とは裏腹に、
レコウドの気持ちは曇天の雲のようである。

財布を改めて覗いてみる。
ため息をつく。
部屋の空気がまた少し重くなる。

レコウドはハイドラライダーであった。
しかも極めて凡百な。

久々のハイドラシミュレーターでは散々な結果だった。
不慣れなタンク。
そして電磁アックス。

何故、そんなアセンブルで挑んだのか？

レコウド自身も振り返ると良く分かっていない。、
ただ、アセンブルした時は、電磁アックスの造形はサックスに似ており非常に良いと思っていた。

そういった感性を持ったハイドラライダーには仕事があまりこない。

そこらへんの現実を最近になってレコウドは噛み締めている。
サンドイッチと一緒に。

コーヒーもこの現実に毒されたか、いつもより苦い気がする。

そう、仕事を探さなければ。
レコウドは重い身体に鞭を打って立ち上がった。

ちらりと後ろを振り返る。
今は楽器を作らなくなった工房。

仕事が無ければ金は入らない。
レコウドは頭を振りながら外に出た。

扉の閉まる音だけが工房に残る。

霧の隙間から覗いた日の光り。
霧都市の郊外……丘の上の工房を照らした。
銀のラッパに朱が射している。

ここは、工房『ホーンフリーク』。
霧都市郊外丘っぱずれにある、ほったて工房。

楽器工房とは名ばかりで、主にハイドラ用の武器やパーツを製作している。

工房の中の一画には食事スペースが設けられており、
そこで軽食を食べるものも多い。

名物はサンドイッチとコーヒー。

今日もスペースには色々な……ハイドラライダー、パーツを探しに来た人、楽器を探しに来た者、冷やかしにきた者、軽食を食べに来たもの……色々な人や人じゃない者がちらほら顔を出している。

顔を出せば、無口なマスターがカウンターから出迎えてくれるだろう。


……格闘ユニオン。
ユニオン購入は基本は経験値+1。
たまに、機動力やAPが混ざったりする予定です。