ENo.0130　かもめの亡霊『モーヴェ』

散乱するメモ。
メモには霧濃度と電磁波を記録した、激しく波打つ模様たち。『サラミス』の破損状況を記したデータも冷たい床にぶちまけられている。
そして、その部屋の隅っこで頭を抱えているのがオレだ。

その理由は…デモンストレーションの少し前に時間を遡る……クソ恥ずかしくて死ぬ…死んでるけどよ…

………………

「今までどこに居たんだよ、なあ。オレ、今まで5年間何やってたんだか。また会えるなんて思ってなかったぜ。」
「だから…だから答えてくれよ、なあ、応答しろよ、」
「聞いてんのかクソ兄貴！！」

………………

これが、フェティヤ・クェリフィートへと送ったアホみたいなメッセージだ。死にたい。死んでるけどよ。5年前には見なかった姿だから、おそらくは新米のハイドラライダー。
ちゃんと見えなかったけれど、あいつはかなり驚いた顔をしてたかもしれない。

……あの人はクソ兄貴じゃなかった。どうして、5年も経って未だにクソ兄貴の帰りを夢みているのか。確かに〝もういない〟ことは確認済みだって言うのに。双子だか三つ子の魂百までとか、そーいうやつ、今時流行んねえよ。

じゃあオレ、あの人になんて顔して、次は返事すればいいんだろう。

オレ（≒メーヴェ）とは似ても似つかないあどけない顔に、どうしても、重ね合わせて見てしまうものがあった。
…すこしくらい、こんな呼び方をしても許されるだろうか。



「よろしくな、兄ちゃん！」

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」