ENo.0308　霧中ネネ

「はいっということで、次からはハイドラの中から、お届けできると思います！おたのしみに！」
「今回の動画は、マテリアルベルト発動機さんのご提供で、お届けしました♪またね～」

配信用の動画を撮り終えたネネはふぅ、と人心地ついてソファに寝転がり、手に入れたばかりのライセンスを眺める。
にまにまと笑いながら、ふへへ、と締まりのない声が口から洩れる。
「慣れない勉強で手間取ったけど…これでやっとスタートラインね……ふへへへ」

ハイドラライダーになるにはハイドラの基礎知識からメンテナンス、応用など様々な知識が必要となる。
勉強が苦手なネネは難儀したが、「世界初のハイドラライダーMistuber」という称号（もしかしたらほかにもいるかもしれないけれど）を手に入れるためには是が非でも打ち勝たなければならなかった。

「苦節○か月……ついに…私の時代だー！」
ライセンスに何度もキスしながら足をばたつかせる。よほどうれしいのだろう。
「ハイドラの手配も済んでるしあとは、しっかりカメラも設置して～っと♪」

最初の契約はマテリアルベルト発動機。
ハイドラ一式と引き換えに製品のコマーシャルを行うことを条件とした契約を結んだのだった。
しかし、そのハイドラを見た時……

「……なにこれ。」
「何ってあなたのハイドラですが。」
鈍重そうな多脚、２つの砲塔にプラズマ砲がマウントされている。そのプラズマ砲を運用するためにエンジンが３基詰まれている。
「ぜんっぜんかわいくないんだけど」
「そりゃ兵器ですから」
「ちょっと責任者呼んできて」
「私がそうですが」
「あっ…そう……。」
イライラしたように桃色に染めた髪を指でいじる。
「ネネ、これに乗るわけ？」
「乗りたくないのであれば、違約金がこれほどかかりますよ、まあ我々は構いませんが。」
タブレット端末に表示された０の数を指折り数えて大きくため息。
「……これ終わったらせめて色だけ可愛くしてやるから」


ということで試運転を終えたあと、さっそくペイント屋に依頼し、せめてかわいい色というオーダーの元、ピンク色のオールペンが実施され見るも無残なビビットピンクに染められたハイドラ『キューティコード』を、ネネは満足そうに見つめる。
「ところで、次からはこちらで用意した僚機とともに出撃してもらいます。」
「僚機？」
「そう、いわゆるバディ。あなたの様な新人が一人でのこのこ戦場に出たらすぐお陀仏です。」
「はーー！？聞き捨てならないわね」
「事実です。」
ネネは聞こえるように舌打ちをすると気分を害したようにそっぽを向く。
「こちらも安くない金を払っているますからね、プロを用意しましたので安心ください。」

僚機の資料を放ってよこす。リョウゴ・サクラバ。元軍人。融通の利かなさそうな硬い表情だ。
「余計なことして、そんなに信じられないのかしら」
「信じられる要素がどこにあるんですか、ぺーぺーの新人ハイドラ乗りなのにどこからそんな自信がわいてくるのか、不思議なくらいですね。」
徐々に辛辣になるマテリアルベルト発動機の担当者。

「まぁいいわ。そのサクラバ？ってやつに伝えといて。『あんたはネネの添え物なんだからせいぜい足を引っ張らない様に』ってね。」
腕を組んで胸を張りながらふふんと自信ありげに言った。
「こちらのセリフだと思われるでしょうけど……」