ENo.0154　B.M.Bros.

　『シルバービート』には翼が無かった。設計図だけの『シルバービート』が蜻蛉のように飛んだのは、ナイングラビティ社に援助を受けてからの話である。
　『シルバービート』はナイングラビティ所有のハイドラとなり、社からの資金と技術の支援を受けてようやく戦場でまともに機能する性能を得た。
　開発チームはウォーハイドラとして動き出した『シルバービート』を見て大きく盛り上がった。
　エリックはすぐさまマニュアル運転期間の搭乗を申し出た。いつでも乗れるようライセンスだけは弟と揃って所持していたので、申請はすぐ通った。
　彼は乗るだけに飽き足らず、機体に少しでも触れる時間を増やすためエンジニアの勉強を重ねた。試験飛行とそのレポートを進める傍らで整備を一手に引き受けられるだけの知識を補強した。勤勉の甲斐あって、整備班のチーフとしてチームの動向を指揮する立場へと落ち着いた。
　弟のセドリックは兄が整備に携わると代わるように機体を貰い受け、現在は彼が『シルバービート』と共に霧の空を駆るハイドラライダーとなった。
　兄も、弟も、紙の上にあった頃から『シルバービート』に特別な感情を抱いていた。戦場に出るならこのハイドラ活躍させたいと思っていたし、この機体をいつの日か実現させると心に決めていた。
　彼らの熱意に応えるように仲間が募り、運命に祝福されたように『シルバービート』は現実に飛び立った。
　にも関わらず。

「二度とツラ見せんじゃねえ」

　ナイングラビティが叶えた、凡庸な兄弟の無垢な夢。それはチームからメンバーを一人奪った。