ENo.0237　ルート・ロックサイド

　暗い倉庫の中、アセンブルを解除したハイドラに乗ったまま今日の戦闘を思い返していた。
自信は有った、父さんと母さんのように戦場を駆け、戦績を積み上げる様を想像していた。

　…結果は惨敗だった。
確かに最初こそ勢いに乗って戦えたが、次第に敵機からの被弾が貯まり早々にボクのハイドラは火を噴いた。
そして戦闘続行不能、ボクの機体は戦場のゴミとなったのだ。

そんなボクの無様さとは対照的に、ネリーさんの機体は圧倒的な活躍をした。
ボクは身動きの取れないハイドラの中からその光景を見ていた。

　腕前が良いのは分かっていたんだ。
特に射撃の腕前はボクの知る限りで並ぶ人は居ないくらいに。
だから、迷惑を承知で弟子にしてくれと押し掛けた。
でも、普段の生活態度を知るにつれ、失望と言うか、呆れと言うか。
そんなものを感じ始めていたのは事実だ。
でも、今日のネリーさんの活躍は…眩しかった。

「……。」

　拳を握り締めながらボクは戦場を駆けるネリーさんの機体に頭を下げた。

…
……
………

　眼に焼き付けたネリーさんの戦いぶりを思い出しながら、次の戦場の為のアセンブルを考える。
まず軽量機で無謀な突進をするのは止めた方が良いだろう。

父と母を殺したライダーは軽量機を駆り、猪突猛進な戦闘法で戦果を挙げたと聞いていたが…。
今のボクにはどうやら真似が出来ないらしい。
悔しいがそれを認めなければならないだろう。

　暫く悩んだ後で、ネリーさんのアセンブルを参考に堅実なアセンブルを組んでみた。
まずは生き残ることを考えよう。
戦果を一杯稼ぐアセンブルだとか欲を出すのはそれが出来てからだ。
何よりも戦場で早々にボクが脱落することでネリーさんの負担を増やしたくなかった。

………
……
…

　着信が有りました。再生しますか？

　ピッ。

「やぁ、久しぶり。
　キミがハイドラライダーとして企業間戦争に乗り込んだのは知っている。
　僕らと行動を共にしてくれなかったのは残念だけど、それがキミの生き方なんだろうね。
　何か遺跡の情報掴んだら教えてくれよ。
　僕らは同志だ。
　え？ 同志になった覚えは無いって？
　はは、つれないことを言わないでくれよ。
　確かに方向性は多少違うのは認めざるを得ないけれど、キミも僕も目的は同じだ。
　巨大な敵に立ち向かうには仲間が必要なんだよ。」

　次のメッセージを再生します。

　ピッ。

「次はミッションCだ。」

　次のメッセージを再生します。

　ピッ。

「今日は。
　フブキ・ライダー斡旋商会です。
　指定の場所に企業より供出されたパーツをお届けしています。
　また次回よりコロッセオ参加者を対象とした賭けを開催します。」

…
……
………

フブキ・ライダー斡旋商会

　企業とライダー間の契約を仲介することで利益を上げる比較的大手の契約仲介企業。
前身は『サインス人材派遣機構』
5年前の戦乱後、程なくして名前を改めると共に業績を伸ばしてきた。

　企業の需要を満たすライダーの頭数を迅速に集める為、ライダーを欲する企業側の評判は悪くない。
ライダーを斡旋した企業からの謝礼がフブキの主な収益源である。

一方で競合企業からは『倫理が存在しない企業』と陰口を叩かれている。
理由としては、仲介するライダーが犯罪者として指名手配中の人間であろうと、年齢が一桁であろうとも構わず仲介する為である。
ライダー側が最低限の必要な書類さえ出せばOKなのである。

尚、ライダー側には、前述の誰でも簡単契約可能、仲介料と称して過分な手数料を搾取されない、余計な手間である企業との契約調整をフブキが代行するなど評判は悪くない。