ENo.0068　リュミドラ・カラビネル・レギナルト

【ウイルスの報告】

被検体のウイルス融和率が安定している。
これが示すのは、我らの会社のウイルスが被検体に対し、
ある程度の浸食をしつつも共生することに成功したということ。

つまりは、理性を保たせたまま……バイオ兵器と融合した兵士を作り出せる。
理性を持ったバイオ兵器を。





【ドレイクのメモ】
『設計書を裏ルートで横流しする』
『……送信先は、ストレガだ』






これは、５年前の話だ。
この残存領域がまだ、霧と荒野の世界だった頃。
今の状態ではない、旧き世界だった頃の話だ。

ハイドラ大隊というのはその時には既に存在していた。
ライダー達も然り。

そうして、霧と鉄と土、噎せ返るような湿度の中、
企業同士の戦争に明け暮れていた日々。

ライダー達は様々な集いを作り、コミュニケーションが生まれていた。コミュニティとも言うのだが。

その中で、酒を飲むためだけに集まり、ハイドラの性能に関して何も言わず。
情勢に口は出せど、酒の肴になればよし。明日を生きるためではなく、
今日を生きた自分に祝杯を。
明日を生き残れるかは分からない自分たちに祝杯を。

そういう、酒を飲みその時代を生きたライダー達のユニオンがあった。

……チアーズ。
乾杯、の意。






世界が変わるとき、チアーズはその世界の移り変わりと共に「今日を生きた」。

今日では、覚えている人などごく僅かだろう。
だが私はチアーズを忘れることはない。
今日を生き、死ななかった事へ祝杯をあげる。
それが生き方なのだ。

――――機体の半分が、バイオ兵器に侵蝕されたハイドラ。
そのコクピットで、ボロ布纏いのライダーは通信機の周波数を合わせ、
「何も言わない」状態で幾つかの機体の周波数に合わせ、何を言うことなく、通信を切った。

もうここに自分のいた場所はない。
それでも、時々―――――――


「相棒、いくよ」


HCSの向こう側、ハイドラの外。
聞こえた声に瞬発的に顔を上げ、ハッチを開ける―――


「……被検体、現時刻はハイドラに乗るとは命令していないぞ」

防護服を着た男が、ハッチの外にいた。
ボロ布纏いのパイロットは、紅い瞳を歪ませながらハイドラを降りる。
そうして、拘束具を布越しに取り付けられ、数人の防護服を着た者達に連れていかれるのだ。

リュミドラ・カラビネル・レギナルト。
ロッテン・ドレイク。

堕落せし竜魔族の銃手、チアーズのリーダーの右腕にして相棒として
戦った女は、今や新興企業の生物兵器の被検体である。

この世界に何を思うのか、誰に語るもなく。
だが企業の端末を時々利用し、自分が昔見知った会社が
まだ存在し、共に戦ったライダーたちが今はオペレータだのになっていると知った時、
人知れず苦い顔をした。




私は、どうすればいいのだろう、と。

バイオ兵器に蝕まれ取り込まれゆく身体と共に、
琥珀色の液体をショットグラスに注いで飲み干す。
自分には何が残っているかもわからない。
このまま企業の駒として死ぬのか。

―――否。





企業のハイドラのカスタマイズは一任されている。
ライダーとしての自由だ。
交流も、また自由として与えられている。
門限があるのを除けば、まあ。
このままでもいいのだろう。だがそうじゃない。
約束された明日をずっと迎え続けるのは、嫌なのだ。


約束されない明日があるから、今日を生きたと言えるのだ。





「――――」

ボロ布の端から、バイオ兵器の触手が姿を覗かせていた。

Cafe ＆ Maintenance Mer-Millia

巨大樹木の中から、機械の大百足を探せば良い。
その樹の足元に、腕のいい整備士――あるいは料理人のいる店があるのだ。

カフェ＆メンテナンス『メル・ミリア』は、今日も密やかに営業を続けている。
禁忌戦争を生き抜き、霧とともに消えたとされたハイドラ大隊から戻ってきたと噂されている店主は、もはや多くを語らない。ただ、樹木に絡みつくように“眠っている”機械の大百足は、その時の店主のウォーハイドラだとされる。
時々たまに、思い出したように起き上がって、生きているかのように周りを歩き回るのだという。だから、この辺の木の根は金属の多脚にずたずたにされてしまって、あまり真っ当には育たないんだそうだ。店主はそう言って笑っていた。

今日のおすすめは、禁忌戦争で破壊されたと言われる要塞のひとつを模した店主手作りのケーキ。

！店および店主（ENo.7サブ）の既知可　4期既知（ENo.4）も可
！ユニオンに参加せずメッセで利用する体も歓迎
！ロールするキャラを推奨するかも

細かいこと：http://midnight.raindrop.jp/decoherence/union.html

（整備極ユニオンです。購入はユニオン主の独断。）