ENo.0303　生体電池『下村瘡子E』

オフになった強制脱出機能のランプが赤く点灯している。撃墜時の強制脱出機能がオフになっています。音声こそないにせよそれはじっと見つめるようにわたしたちのほうへ向けて光を放っている。言われずともわかっているメッセージを、けれど切る方法をわたしたちは知らない。わたしたちにわかっているのはハイドラ・コントロール・システムの強制脱出機能をオフにするやりかたと、強制脱出機能がオフになっていますと無機質に告げる音声通知をオフにする手続きだけ。どうしたらこの赤い光を消せるのかしらと探してみてもマニュアルには坦々と安全上一部の通知を切ることはできませんと書かれている。安全上。戦場へ向かうウォーハイドラはおおくの場合、それでも安全第一につくられている。パイロットが死なないよう、死ぬとしても機体それ自体の欠陥で死ぬことがないよう。強制脱出機能をオフにして手動に切り替えることを五年前の戦争のふるい習慣で《死亡許容》とハイドラライダーは呼ぶ。とはいえ五年前には手動での脱出機能がハイドラ・コントロール・システムに標準搭載されることはなかったと聞いている。わたしたちの三〇三号病室にその脱出機能が搭載されたのも三年前のことになる。戦場で死ぬまで戦っていたライダーたちのことを思い浮かべるとわたしたちの胸に息がつまるような気がする。死ななかったとしても、死を背中に置いて、報酬を引き上げてあの戦場で戦っていたハイドラライダーたち。もちろん手動脱出機能も万能でない。死人はいまの遺跡探検でも何人も出ている。でもけっきょくのところいま戦われているのは探検隊の大冒険にすぎない。入口から安全のかぎり覗き込んで、危なくなれば命からがら引き返す、ときには交戦しながら、けれど殲滅も勝利もけっきょくのところ目的でない、そんな戦いにすぎない。わたしたちの戦場はなくなってしまった。わたしたちはそのことばかり考えている。五年間。五年間も？　仕方ない。わたしたちが十年もかけてゆっくりと夢見ながらそれに手がとどきそうになったところでばらばらに壊れてしまったものの弔いをしているのだから。その整理はきっと長い仕事になるのだろう。けれどその喪が明けたときわたしたちはどうするのだろう。この病室につながれたまま、戦争なしでは生きられないこんな体を抱えたままで。