ENo.0303　生体電池『下村瘡子E』

ちぎれていったわたしたちの部分は遠く離れてしまってもう戻らない。けれどわたしたちは総体として生きている。
わたしたちのすみずみからわたしたちの声が聞こえる。生きているんだー。生きているんだー。わたしたちは生きている。……
死はわたしたちにはまだ遠い。わたしたちのウォーハイドラがぐしゃぐしゃにつぶれたあとでも、あの懐かしい病棟から別の病棟へ移り救命機器につながれた失神からめざめたあとでも。
死を許容したつもりはない。生き延びることを優先したつもりもない。ただわたしたちはやけっぱちみたいにコロッセオを戦場として選び取りながら、どうしたってどこかでたかがコロッセオなんかで死んでやらないという意地をどこかでもっているらしい。わたしたちは踏み込まない。
マテリアルベルト発動機から遺跡のミッションが提示されている。わたしたちはそこへ行くこともできる。きょうもコロッセオにエントリーしながらわたしたちはそこに惹かれているわたしたちのことを感じている。アンテナの探知状態を広げてみるといくつもの勢力たちのおしゃべりが流れ込んできた、ヒルコ教団、白兎生体化学、シルウェストリス航空……
デバステイター・センチネルからの通信はわたしたちにも届いていた。こんなコロッセオでセンチネルへの脅威もなにもあったものじゃないというのに。それでも彼（？）はわたしたちを待っていた。わたしたちに呼びかけていた。わたしたちは困惑する。すこしは期待もする。そこに戦争があるんじゃないかしらと。