ENo.0303　生体電池『下村瘡子E』

この遺跡は世界を守るためにつくられたのだと通信が言う。デバステイター・センチネル、遺跡の中枢にあるもの、たったひとりでハイドラ大隊を迎え撃つ、わたしたちコロッセオのライダーにはまるで関わりのない遺跡の各セクションに横たわってハイドラライダーを待つ人。残像のようにこだまする通信をわたしたちはいくつも聞いてきた。

＞貴様らが暴れたおかげで、世界のバランスが崩れつつある。ニュースを見れば分かるだろう。

デバステイター・センチネルもニュースを見るのだろうか？　遺跡の奥でタブレット・デバイスを覗き込んでいるデバステイター・センチネルを想像してわたしたちの多くの部分がさざめくように笑う。わたしたちはニュースを見ない。ラジオから聴き取るだけだ。わたしたちにニュースはただ聞こえるばかりのものとしてある。わたしたちはそうして想像する。映像を知らないままで。ぬるい培養液にみたされたこの病室のなかはあたたかで気候異常も衛星軌道も遠い時空の話だ。それはわたしたちから切り離されている。

わたしたちになまなましくリンクしているのは目の前の戦場……戦場と呼ばれるあの丸く切り取られたアミューズメント・パークのようなコロッセオとそこを歩き回る残像たちだけ。それさえモニターを一枚隔てたテレ・ヴィジョンとしてあるばかりだ。震動は伝わる。火花も散る。計器がぐるぐる廻る。でもそれだけ。わたしたちには世界にあるといういろいろなものが実感にほど遠い。なにかに命がけで取り組むにはわたしたちは望んだものからあまりに引き裂かれてしまい、あまりに広く長く引き延ばされてしまった。……