ENo.0390　ピクセラ

「タッドくん～、とりっくおあとりーと！
なんかくれ！」

時は10月31日、お祭りに賑わう街の雑踏の中。
偶然見つけたタッドくんは、ビックリするほどいつも通りだった。お祭り騒ぎの中で、いつもの地味な軍服は逆に浮いて見える。
まぁ仮装してるタッドくんの姿なんてちっとも想像できないし、されても反応に困るけど。

さて、折角会ったからお約束のやつをやってみたけど、どうせお菓子なんか用意してないだろ。
どんなイタズラしてやろうかなー？なんて、アレコレ候補を考えていたら。

ぽん、と。
ボクが差し出した掌の上に置かれた包みは、形からしてチョコレートだろうか。

なんだ、持ってたのか。ちょっと肩透かしだ。
でも、もしボクのために用意しててくれたのなら。ちょっと嬉しいかもしれない。

「お、ちゃんと用意してくれてるなんて感心だなー。
じゃあ早速もーらいっ」

……なんて、一瞬でもそんなことを思ってしまったのが悔しいので、態度はいつもどおりに。
お菓子くらいもらえて当たり前だろ。むしろ普段のタッドくんはかわいいボクに対して冷たすぎるくらいだと思う。

地味な包み紙をペリペリめくると、やっぱり物はチョコレートだった。
まぁ甘いものは好きなので、ありがたくいただくことにする。

「……って、固っ！！　あっっま！！」

一口食べて、思わず文句を言ってしまう。
まずくはないんだけど、なんか……期待してた味と違うというか……。
最近は身の丈に合わないお高いものを食べる機会が多かったせいか、いつの間にかボクは随分贅沢になってしまったらしい。正直、自分でもちょっと驚いた。

「……タッドくん、普段からこんなん食べてるの？　それともボクへの嫌がらせか？」
「いや、…………」
「ま、良いけどね。食べれればなんでも」

文句は言ったけど、あくまで最近食べたものに比べれば……って話。以前のボクの食生活を思い出せば（あまり思い出したくはないけど）、甘いってだけで上等だ。
気を取り直してチョコレートにパクついてたら、タッドくんが微妙な顔でこちらを見ていた。

あ。怒らせたかな。

「？　どうかした？　……まさかお返しとか期待してないよねー？
言っとくけどなんも用意してないからな」

……実は怒ってないという可能性に賭けて、とりあえず探りを入れてみたり。

「保護者気取りか！？　このかわいいボクにそんなつれない態度取るのタッドくんくらいだぞ！　聞いてんのか！」

立ち去っていくタッドくんの背中に声をかけても、振り向きもしない。本当に聞いてないのかもしれない。そのまま人混みに紛れて、すぐに見えなくなった。

なんなんだ本当。
優しいのか冷たいのか、よくわかんないな。タッドくん。

禁忌戦争から五年。
世界は霧の呪縛から解放され、新たに黄金の楔を撃たれていた。

持つ者は持たざる者を貪り食い、世界は荒廃していた。
だがーー人々の愛する""正義""は、失われていなかった！！