ENo.0233　ガク=ワンショット

ガクが起きてまず思ったのは、目玉焼きを食べようということだった。

ベッドから身体を起こし、まず窓のカーテンを開ける。
本日の天気は良好。晴天のち曇り、所によらず霧。

つまりはいつも通りである。
天気が良くても悪くても大して変わりはしない。
結局、この残像領域は霧が支配する場所であった。
どちらにしろ日の光が満足に届くことは少ない。

じわりとした湿気が纏わりつくのを感じながら暮らすのは、
それなりに面倒な事ではあった。

かと言って霧があるのもそう悪い事ばかりではない。
ガクは朝食の用意に取り掛かりながらそんなことを考える。

例えば今焼いているこの目玉焼き。
これを焼くのにもこの霧が役だっている。
水の粒子を動力にする技術。
この霧があってこその動力である。

そう、何も悪い事ばかりではない。
悪いことのほうがずっと多いが。

例えば悪い事のひとつ。
ハイドラである。

ガクは目玉焼きを皿に雑に盛り付け、パンと一緒に食べ始めた。
そう、ハイドラ。霧を動力に動く兵器。

随分長い間ハイドラ乗りの仕事は休業していたが、さすがにそうも言ってられなくなってきたのだ。

資金が底をつくという、ひどく分かり易い理由。
働かざる者食うべからず。
怠惰な生活は終わりというわけである。

おかげで、昨日は一日中機体の整備に追われていた。
部品の交換や機器の調整。
ミストエンジンの試験運転もしていたため、蒸し風呂のような環境での仕事だった。
ゆでたまごになるかと思った程である。

そんなことがあったのが理由だと思う。
朝御飯を目玉焼きにしたのは。

食後のコーヒーを飲みながら、ぼんやりとガクはそんなことを考えている。
ブレックファースト。朝御飯。一日の活力。

不意に電話がなった。

ガクは頭を掻き、受話器を取った。
取る前から相手はわかっているし、内容もわかっている。

「もしもし」

「仕事よ」

モーニングコール。
朝の合図。
霧と火薬と硝煙の世界におはよう。