ENo.0348　シシリー・M・W

　シシリー・M・Ｗ、通称シリーマウス。
　ラジオから流れてきた彼女の今日の星占いは31位、堂々の最下位だった。

「はあー？　っざけんじゃねーわよ！　何が最下位よ、絶好調だっつの！」

　腹立ちまぎれにラジオにポップコーンを投げつける。
　この行動には二つ間違いがあった。
　まず一つは、床に散らばったコーンは結局自分で片づけなければならないのに投げてしまったこと。
　ちまちました掃除が嫌いなシリーマウスは、あとで後悔すること確実である。
　そしてもう一つは――本当は、キチガイネズミを名乗るこの少女は好調とはとてもいえないということである。

「ったく……なんでこうなってんのよ。あー腹立つ」

　シリーマウス自身の体調は悪くない。
　だが、ラジオとポップコーンをお供に整備している彼女のハイドラ、『ラットフット』はボロボロである。
　前回の戦いで、テンペストのプラズマ砲を二発ぶちかまされてあっさりと行動不能にされたのであった。
　全損というわけではなく、こうして修理と整備をすればまた動かせるが――手間と金はかかる。
　そして、シリーマウスの傷ついたプライドを修復するのはもっと大変である。

「あの詐欺整備屋がケチのつきはじめなんだ、やっぱ」

　白い髪の中、一房だけ赤く染めた前髪を指で弾く。
　その一房をいじるのはシリーマウスがイラついているときの癖で、いわば彼女の爆弾に繋がった導火線のようなものだった。

「パーツ全部盗まれるし。
作った照準障害装置使いづれーし。
あり合わせで出撃したら落とされるし。
修理に金かかるし。
金とパーツつぎ込んで噴霧器作ったら大した性能にならねーし。
たぶん高すぎて買ってもらえねーし。
次は大して霧が出ねーし」

　恨み言をひとつ言うごとにナットを締め、回路を繋ぎ、システムを立ち上げる。
『ラットフット』は戦うための形を取り戻してゆく。

「不幸を渡す相手を間違ってんじゃないの、『ラットフット』。
あんたは敵にとっての不幸の象徴なんだから、私に運んでこなくていいのよ。
ここまでツイてないとさあ、流石の私も……っづあ！」

　バチッとショートが起こり、シリーマウスの指先を灼く。
　戦場では面倒が増えるだけだろうにネイルが施された爪の横、火傷が刻まれる。

「―――絶好調だよ！！」