ENo.0176　クロムノート・ウェルサキオン

『……次のニュースです
釘片影町13番街で女性の変死体が発見……』

薄い壁の向こうから聞こえる雑音交じりのテレビの音が、クロムの意識を覚醒させた。
微睡みながらも周囲を探り、硬い硝子の感触を指先に感じる。安酒の瓶。確か昨日はこれを呑んでいる時に眠ってしまったのだったか。

クロムは昨夜の事を思い出しながら酒瓶を逆さにするが、期待していた中身は既に昨日飲み干していたらしく、空だった。クロムは舌打ちをしながら酒瓶を部屋の隅へと放り投げると立ち上がり、ポケットに小銭が入っているのを確認すると外に出た。

ハイドラライダーに支給された安アパートの玄関を出ると、たまたま廊下に出ていた若い男がクロムを見て露骨に顔を顰める。
そういえば３日ほど風呂に入っていなかった気もしたが、クロムにとってはどうでも良かった。無視してすれ違おうとすると、若い男は声を掛けてきた。

「アンタ、ひどい血の臭いだぞ。ケガをしたのか？　それとも返り血か？」

「…ああ？　そうか。そりゃ気付かなかったな。教えてくれてありがとうよ。朝飯を食ったら洗濯でもしておくかね」

どうにも鼻が慣れているせいか、クロムは血臭にひどく鈍感だった。地域交流などはどうでもいいが、いらぬ嫌疑をかけられて面倒になるのは避けたい。
クロムは適当な商店に入ると幾ばくかの食料と酒を注文し、元軍人とかいう店主に衣服を譲ってもらえないか交渉をする。幸い、もう必要ないからと無料で古着を譲ってもらった。

「…しかし、アンタひどい血の臭いだぜ。何をしたんだ？　ハイドラに乗ってるなら、そこまでは返り血も浴びねえだろ？」

「俺のは安物だからな。浴びる事もあるのさ」

古着を店の奥にある居住スペースから持ってきた時に不審そうにクロムへ目を向ける店主に、肩を竦めながらそう答えた。
…実のところ店主の予感は正しく、ハイドラに乗っている限り返り血など滅多に浴びない。
増して相手も何かしらの兵器に騎乗しているのだから、なおさら浴びる要素などない。

ではこの血臭は何かといえば。返り血というのが正しいだろう。
ただし、相手は生者ではないが。


――夜半。クロムは自身のハイドラである「レイジングヴァイパー」に騎乗し、数時間前まで殺し合いを行っていたという戦場に足を踏み入れる。
視界に広がる立ち込める煙。残骸。廃材や漏れた燃料からは怨念のように炎が立ち上り、未だ濃霧に満ちた戦場に黒い煙を撒き散らす。
クロムはそれらに構う事無く、比較的形を保っている兵器の残骸を漁り始めた。

――グール、という怪物がいる。
彼等は夜中に墓場に赴いては、死者の遺骸を喰らう性質をもった邪悪な鬼なのだそうだ。

クロムがやっている事は、それに近い行為である。
兵器の死骸を漁り、使えるパーツを漁り、可能なら修理・改良を加えて販売やチューンナップに使用する。
お高い正規品と違って安価で揃えられる上に、中には未知の技術が施されているものもあるのが魅力的だ。
もっとも、まっとうな倫理観がある者や財産を持っている者でなければそんな発想には至らないのだが、クロムのような不届き者は他にも多いようで、夜闇と霧で姿こそ見えないが、時折残骸を漁るような音が聞こえてくる。

この戦争に参加した時点でスポンサーからは十分すぎるほどの給与を貰っている。整備だのパーツの購入だのに大半が費やされてはいるが、それでも余るほどだ。
だから本来、こんなマネをする必要などどこにもない。それをあえてしているのは、死体漁りを趣味にしているのでなければ、よっぽど強欲なクズだけだ。

何せ死人から物を盗むわけだから訴えられる心配はないし、それで手に入るものは修理こそ必要だが性能が良いものも多い。
コストパフォーマンスという面に限定すれば最上の手段だ。

もっとも、まっとうな倫理観を持つ連中にしてみれば浅ましい光景なのだろうなとクロムは思わず声に出して笑ってしまった。
そこに自嘲の色はない。ただただ、愉快そうな暗い笑みだった。

…戦場に響いていた死体漁りの音は、結局明け方近くまで続いていた。

戦争！　戦争！　戦争だ！
喜べよ下種畜生ども。地獄のラッパが響いてきたぞ。
俺達が呼ばれている。
多くの血を流すため、多くの命を踏み潰すため、多くの死を広げるために。地獄の戦鬼が。

よう戦友！　アンタが求めるのは血か？　金か？　闘争か？　栄誉か？　はたまた正義なんて求めてるのか？
まあ、いいさ。どれだって。御大層な理由だろうがクソみたいな理由だろうが、やる事も同じなら逝く場所も同じなんだからよ。

どうあれ、ここにいるって事は俺と同じく戦争をより盛り上げたいってイカレ共だ。
死体と涙と恨みと鉄屑を空高く積み上げたいって、死んだら地獄行き間違いなしの畜生共だ。

同じ死体を漁る野良犬同士、せいぜい仲良く分け合っていこうぜ、なあ？

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格闘反応な命が葉っぱ勢のあなたに。
ユニオン活動は格闘×3　反応×2 → 格闘×2　反応×3の順で更新毎に変更していきます。

10人の状態で死亡者が出た場合、また2更新以上行動しない場合は参加許可を外す可能性があります。ご了承ください。

ユニオン購入は何かしら意見あるまでは機動力＋3%を予定しています。