ENo.0338　ドランカー

【3：Murder case】
一仕事が終わり、倦怠感で満ちた操縦棺の空気をラジオの――事務的な――声が掻き混ぜる。
その内容は実に暗澹としており、掻き混ぜられた空気はより重たいものとなった。
尤も、この世界ではよくある話であり、酔っ払いは胡乱気に聞き流したが――もう一人はそうは行かなかった。

《前 仲介人 が 殺されました》

もう一人――サポートAIのMARYが、単語を組み合わせたような抑揚のない声を発する。

「ああ？ポンコツが、何を気にしてやがる。よくあることだ」

《何故 誰が》

このまま打ち切っても良かったが、酔っ払いはなんとなく乗っかる事にした。
きっとそれは、この気だるさのせいであり――過去、理不尽に激した自分を思い出したからではない。

「知られちゃ困るような事をやってる奴はどこにでもいるんだろうよ。
職を辞めるところだったって事は企業連盟じゃなく、霧笛のところの誰かだろう」

《霧笛の塔 は 彼女 の 仲間 です》

「元、な。そうでなくても、仲間同士が仲いいとは限らねえさ、俺とお前みたいにな」

《否定 私 と 貴方 は 主従関係 です》

「仲間じゃねぇってか。はっ、そりゃそうだ」

先程の自分の発言を鼻で笑い飛ばし、深く座りなおした。


しかし――このAI、操縦プログラムだけかと思えばマーカスめ、一体どこから拾ってきたのか。
今時のAIはどれもこうして人間的に振舞うようになっているだけかも知れないが、まさか余計な事に首を突っ込みはしないだろうか。

「おいポンコツ、お前のメーカーはどこだ？」

《不明 データ 消失》


試しに投げた問いはすぐに終わり、また操縦棺は倦怠感に包まれた。

恰幅のいい40歳の男が経営する小さなハイドラ用のジャンク屋。
小さいながらもパーツの揃えはよく、そこそこ繁盛しているようだ。

長年やっているだけあって残像領域の情報やハイドラライダーの噂話に敏く、それを目的にやってくる客も居るらしい。

立ち寄る事があったら世間話でもしてみたらいかがだろうか。


（※暫定ユニオンです。消すかどうかは折り見て考えます）