ENo.0064　タカムラ＝カミツ

act.08
『あのさー！　黙って聞いてりゃお前さー！』
　頭を苛む痛みを掻き消したのは、目の前の彼が持つその端末からの声――パロットその人の声だった。どうやらかなり憤慨しているらしいことは声色でわかる。ぷつりと緊張の糸が切れた気がして、篁はほっと小さく息を吐く。相変わらず耳に彼女の声は届かない。後悔でも、妄想でも。そう理解をしたのだ、もしかしたらもう聞こえないかもしれない。もし聞こえなくなったなら、篁はもう赦されることはないのだろうか。
　赦されたい。誰に。何を。
　……そう問われたとして、明確に答えを出せるような気がしていないのが現状だが。
　わいわいと騒いでいた言葉は耳を通り過ぎて、目の前の彼の言葉に沈黙するのだけが分かった。ふと、静けさが降りる。
「すまない、タカムラ。単純に疑問に思っただけなんだ、君が『ここにいる』というならば、それを否定する気は全くないよ」
　向けられた笑みはどこか普段よりも柔らかく感じて、頷きを返すことしかできなかった。
　彼女を否定されない。それだけで十分だった。ありがとう、と言葉にする寸前。
　ふと、視線が絡む。
「でも、もし、ボクの想像が正しければ、だけど」

「今、君を赦せるのは、君だけじゃないのかな」

　誰に、赦されたかったのか。
　何を、赦されたかったのか。

　考えたこともなかった言葉に初めて気づいたようにきょとんと眼を瞬いた。そうして、いきなり迷路に投げ込まれたような、ふとそんな気分になって視線を彷徨わせる。
「……俺が、」
　俺を。言葉を繰り返す。
　赦していいのか。赦されていいのか。頭の中を支配するのはその問いだ。
　彼女を殺した自分を、自分が赦してもいいのかと。ユカ。頭の中で呼びかけても、言葉は返ってこない。欲しい返事は戻らない。……返事が返らないということが、つまり自分の迷いだということに気付いて口元だけで苦く笑った。
「……まだ、」
　しばらくの沈黙の後、小さく言葉を落とした。自分でも声が震えていて、篁は内心で笑ってしまう。後悔であり、妄想だったとしても、彼女と言う支えがない今の状況はあまりにも自分が心細いとそういうことなのだろうか、とゆっくり顔を上げた。わずかに、笑って見せる。彼にはどう映ったのだろうか。
「俺は、自分を赦すことは、できない」
　だけど、と言葉を続けた。
　顔を上げる。視線が合う。真っ直ぐに、その眼を見据えて。ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「自分を、赦せると思ったら。――前に、進めると思ったら、」
　記憶の端にいる、赤茶色の髪をした誰かに話した、自分の遠い記憶を思い出す。
　大きな手でぐしゃぐしゃに撫でられる感覚を、ふと思い出して。

「俺の後悔を、聞いて、ほしい」

残像領域のとある町の、ひっそりとした町はずれの倉庫街。
ひとりになりたいハイドラ乗りたちがいたり、いなかったり。


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と、いう設定のユニオンです。
ソロールするもよし、のんびりするもよし。
とりあえず制御と格闘の活動をよこせと言うのでも良し。
そんな適当ユニオン。

【制御3＋格闘2】【機動力＋3％】