ENo.0261　Solitus

ソーナをあの酒場へ連れて行って以来、カナエは情報収集のために酒場に行くときはソーナを連れて行くようになった。
というのも、ソーナに派手に負けたのが相当悔しかったらしく、よく出入りしているあの酒場のマスターにまたソーナを連れてきてほしい、今度こそ勝ってやると言われたのと、ソーナが全く難色を示さなかったからだ。
カナエは今までずっと、ソーナはこういった賭け事やいわゆるアンダーグラウンドな世界が溢れている場所に対しては難色を示すと思っていた。
今まで彼女をそういった場所には連れて行かず、自分たちの仮拠点で待ってもらっていたのはそういう理由からだ。
だが、いざ連れて行ってみると、嫌な顔一つせず、むしろはじめてやるポーカーや、はじめて見る色とりどりのアルコール類に目を輝かせていた――さすがに飲酒は許さなかったが。
ちらり。カナエは隣でじっとパーツを眺めているソーナへ目を向ける。

「ソナ。ソナってさ、意外と酒場とか賭け事とか平気？」

突然のカナエの言葉に、ソーナは目をぱちくりとさせてこちらを見上げてきた。
場所はマーケット。大勢のハイドラライダーたちで賑わうこの場所には、様々なパーツが集まるため、定期的に足を運ぶことにしている。
ゆっくりと瞬きをしてこちらを見つめてくるソーナへ、カナエは言葉を続ける。

「いや、この間俺がよく出入りしてる酒場に連れていったけど、嫌な顔してなかったからさ。ポーカーだって楽しそうにしてたし」

カナエの言葉にようやくソーナは納得したように頷いた。
それから目を柔らかく細め、口元に微かに笑みを作って、囁くような声で答える。

「……平気。今まで知らなかった世界だから」
「そっか。ならいいんだけど。……あの酒場のマスターさ、またソナとポーカーしたいっていってたよ。今はまだ修行中みたいだけど、そのうち声がかかると思う」
「本当？……ポーカー、楽しかった。またやりたい」
「またそう伝えておくよ。ソナ、再戦することになったら、遠慮なくやっちゃっていいからね？」

にやりと悪い笑みを浮かべてそういうと、ソーナははたはた瞬きをしたあと、こっくりと頷いた。
マスターには悪いが、ソーナの練習台になってもらおう。
ソーナもポーカーを覚えて強くなれば、情報収集を二人で行えるようになるはずだ。
身につけているヘッドドレス越しにわしわし彼女の頭を撫でるカナエの隣で、ソーナがほんの少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべた。