ENo.0076　マリエッタ

　少し前、こいつに救われたいと思ってしまった僕は

　見事にこいつに救われてしまって。

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「ははっ、そうツレないこと言うなよ。
　　　　　　　　　…………愛してるぜ、エッタちゃん？」

ああ……本当にこいつは。
さらりとそう言う事を言ってのける。冗談でも、軽々しくそう言う事を言うんじゃない。

「おまえ……おまえなぁ……冗談でも」
「えー？オレ様、未だかつて冗談で言った事なんてないですーぅ。」
「この酔っ払い……！！」

へらり、と笑みを浮かべながら目の前の相棒は僕にそう言った。
ああ、もう。

「……僕の決心を返してくれ。」

手で顔を覆って小さく感嘆し、ぼそりと漏らす。

「あ？」
「何でもない。」

それより

「どうでもいいけど、いつから僕がお前の相棒になったんだよ……」

自分で言いつつも、ごもっとも。
確かに冒険で一緒のパーティを組んだ。
その後はこいつが命を落として、何故か憑りつかれて、そのまま憑りつかれたまま僕は旅を続けて……今に至る筈なんだが。

「嫌なのか……？」

座ったまま　下方向から身を乗り出すようにじぃ、と上目遣いで見つめてくる。
座ったまま　一定の距離を保つように後ろに反る。
……コイツ、わざとだろ。こうすれば僕が否定できない事を知っている。
お生憎様、二度は通じないよ。

「………誰が嫌だって言ったよ。」

あいつが心の中でガッツポーズをしているのが見えた気がした。
……ああ、甘いなぁ。

「僕も………、その、………す」
「す？」
「……、す……少しだけ、お前が……、いや、何でもない。」

ふい、とそっぽを向いた。
らしくない言葉。そんな事、恥ずかしげもなく面と向かって言えるわけがない。
けれど

「(エッタちゃんは本当にわかりやすいなぁ。言いたい事がダダ漏れてる)」

そう思われている事なんて僕には知る由もなく。
知る由などないけれど、良いように上手い事扱われているような気もして。
やっぱり腑に落ちなくて、納得いかなくて。
自棄を起こして麦酒を注ぎ、こいつを真似て、一口だけ口に流し込む。

「エッタちゃん！！？お前酒飲めンのかよ！！？」
「酒の一つくら……―――」

言いかけてぐらりと視界が揺れる。
視界いっぱいに映る焦ったあいつの顔に、とても気分が良かった。

……その後は記憶にない。


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「……僕としたことが」

冷静になってみればとんだ大失態だよ。

「なんであんな事したんだ……」

酒を一口。卒倒して、気が付けば太陽は登っていて。


　　　　「……本当に、情けないお姿。」


不意に背後からかけられる言葉にびくり、と身体を震わせる。
いつもならば反射的に距離を取り身構えるのに。
懐かしい声に僕は情けなくも固まってしまった。

「マリエッタ嬢、お久しぶりでございます。」

ああ、本当に、全てにおいて僕らしくない。

「……ノエル。どうしてここに。」

「“また”僕を置いて行くなんて、酷いじゃありませんか。それに……そう何度も僕から逃れられると、そうお思いでしたか？」


ああ、ああ、くそ……。ここに来る前に完全に撒いたと思っていたのに。