ENo.0176　クロムノート・ウェルサキオン

あの日から、ふと物思いにふける時間が増えたとクロムは感じていた。
別に、気にしているわけじゃない。
仕事をしている時、廃棄品を漁っている時、酒を楽しんでいる時。そんなつまらないことは考えない。
ただ、ほんの一瞬。そういった日々の中にも小さな隙間がある。仕事を終えた時、楽しみをつらまないと感じてきた時。
その思考はまるで音もなく忍び寄り、広がる毒霧のようにクロムの脳裏を侵食する。


――あなた、いつからそんな顔をして笑うようになったか、覚えていますか？


毒霧は思考を霞ませ、心まで染み込みじわじわと不安が胸中を満たしていく。
酒を飲むか、仕事を始めてしまえば吹き飛ぶような取るに足らない不安感だが、その恐怖の理由をクロムはまだ理解できていない。
いや、理解しては、いるのだ。答えは目の前に転がっている。


――いつから――


いつから、なのか。まるで思い出す事ができない。
過去の経歴を思い出す事はできる。それこそ心に残った――大体はろくでもない思い出だが――光景はあるし、その時に聞いた声や撃鉄を落とす音は今も生々しく思い出す事ができた。
だが、自分の事となるとまるで思い出せない自分は確かにその場にいたはずなのに、自分がその時何をしていたか、その頃の自分はどんな人間だったか。その記憶が無い。
更に言うと、最近の事。特にここに来る直前の事はほとんど思い出せない。

隻眼の男とフィーグルと名乗っていた赤毛の女に連れて来られて、後払いで戦火を広げる契約を結んだ事は覚えているのだが。
出会いの経緯や、報酬は何なのかはまるで記憶にない。
ただ、今の今までクロムは忠実に「戦火を広げる」という目的を果たすために行動してきた。
時には、リスクを負い、私財すら投資してでも献身の限りを尽くしていた。

「…なんでだ？」

自室で酒を飲みながら天井を見ていたクロムは、誰もいない部屋でぽつり、と呟いた。
返って来る答えはない。

「…俺はそこまで仕事熱心な人間だったかね」

それすらも曖昧だが、自身の日頃の態度を鑑みるに、そんな殊勝な人間でない事は明白だった。
違法行為である事は気にしないだろうが、酒浸りの日々を送るような人間がわざわざ金を払ってまで熱心に仕事をするわけが――
そこまで考えて、ハッとした顔で跳ね上がるようにしてクロムは上体を起こす。
その衝撃で頭周りの酒瓶が転がったが、そんなことはどうでもいい。クロムは焦ったように周囲をぐるりと見回す。
酒瓶と、それを梱包していた紙袋、あとは設計図くらいしか転がっていない質素な部屋。

「……喰いモンは…？」

ここに来てから食事をしたかどうかを思い出す。
最初のうちは…軽食を買っていたような気がするが、それもいつの間にか止めていた。
その間、自分は何か食べていたか？
……何も食べていない。酒を飲んでばかりだ。

「……ああ、何で気付かなかったかね」

転がる酒瓶を見つめながら、クロムは呻いた。
記憶を掘り返すが、やはり間違いなかった。

「こんだけ飲んでばっかりいたってのに、酔わねえって事はねえよなあ、普通はよ」

クロムはここに来てからただの一度たりとも、酩酊した記憶はなかった。

戦争！　戦争！　戦争だ！
喜べよ下種畜生ども。地獄のラッパが響いてきたぞ。
俺達が呼ばれている。
多くの血を流すため、多くの命を踏み潰すため、多くの死を広げるために。地獄の戦鬼が。

よう戦友！　アンタが求めるのは血か？　金か？　闘争か？　栄誉か？　はたまた正義なんて求めてるのか？
まあ、いいさ。どれだって。御大層な理由だろうがクソみたいな理由だろうが、やる事も同じなら逝く場所も同じなんだからよ。

どうあれ、ここにいるって事は俺と同じく戦争をより盛り上げたいってイカレ共だ。
死体と涙と恨みと鉄屑を空高く積み上げたいって、死んだら地獄行き間違いなしの畜生共だ。

同じ死体を漁る野良犬同士、せいぜい仲良く分け合っていこうぜ、なあ？

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格闘反応な命が葉っぱ勢のあなたに。
ユニオン活動は格闘×3　反応×2 → 格闘×2　反応×3の順で更新毎に変更していきます。

10人の状態で死亡者が出た場合、また2更新以上行動しない場合は参加許可を外す可能性があります。ご了承ください。

ユニオン購入は何かしら意見あるまでは機動力＋3%を予定しています。