ENo.0013　ロコ・シュタール

轟音とノイズが混ざり合うのを聞いていた。

損傷の度合いはそこそこ。機体が大きく揺れ、ドリンクホルダーに置いていた缶ビールの中身は派手にこぼれてしまう。ああ、まだ半分くらいしか飲んでいなかったのにな……。
ついでに後ろに積んであった他の缶ビールたちも崩れてしまったことだろう。操縦棺内には独特の俺には嗅ぎ慣れた香りと、熱い鉄の臭いが充満していた。

まだ想定内、なんだけど今回の相手がやや凶暴であることをそういえば念頭に置いていなかった。そう、特に《エウリプテリダ》とか。この前はできる限り対策を尽くせたから大したことが無かっただけで、アレのスペック自体は決して馬鹿にできるものではない。
今回の俺はといえば……奴への対策をこの前のように詰めていくことは出来ていない。万全じゃあないんだ。ただ、他の一筋縄ではいかない敵を放っておくわけにもいかないしでそのあたりの両立は難しいところ。

…所々でエラーを吐く音が重なって少々耳が痛くなってきた。運が悪かったら無事に帰れないかもなぁ、なんて純粋な諦めまでもが脳裏を過ぎる。
でも、今回は珍しく生を諦めきれなかった。なにせ“確認したいこと”が一つできてしまったんだ。あれが偶然なのかはともかく――それには、まずはここにいる邪魔者を片付けてしまわなければ手が回らないことだ。
ボロボロ、ではあるんだけど機体が動かなくなったわけじゃないんだし俺はまだ戦える。…ここに居る以上、戦わなければならない。


でも、……自分の運に身を委ねることはちょいとばかり苦手なんだよね、なんて。
思えばあの日から変わってしまったことは、何も“あの色”のことだけではなかったんだ。


◇


……無事生還できたわけだけど。今日の酒場はいつもの顔触れに加えてお客さんも混ざっていた。
もしかしてここって少し有名な集まりだったのかな？　まぁ、俺はあまり気にしないんだけど～

生き残った者達へ。
これから往く者達へ。
私たちは歌おう、今日この日があることを。
私たちは祝おう、今日この身があることを。

全ての生きとし生けるもの達へ。
健やかに、でもなく。末永く、でもなく。
ただただ只管満足な生と、満足な死が迎えられるように。

乾杯。