ENo.0076　マリエッタ

不覚だった。
まさかノエルの淹れるお茶に睡眠薬が入っているなんて。

整備の合間にほんの少しだけ、仮眠を取ったつもりだった。
ほんの少ーし、だけ。

「……起きたら、朝でした(震え声)」

愛機の隣にいたはずが、気が付けばきちんと寝床にいて。
僕自身の必要な装備もしっかり外されて、ラフな格好に……。

「おはようございますマリエッタ嬢おおおおお！！！どうですかしっかり眠れましたかあああああ！！！！」

「やっぱり君か――――――！！！！！」

飛んでくるノエルを叩き落したのは言うまでもない。


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「やだなぁ。今更ではありませんかー。」

「そりゃあそうだけどさ！」

「……ああ、もしかして胸の詰め物の事ですｋ」

スパーン、と小気味よい音が響く。
僕の放った渾身の平手打ちは避けられる事もなく、見事ノエルに直撃。
ノエルは叩かれた頬を手で押さえ、何とも言えぬ良い笑顔で「フフフ……」なんて笑っている。

「それ以上言ったら今度はグーで殴るよ！？」

「やだなぁ……ご褒美ですね！！！」

この、変態……。

ノエルを叩いた手を下ろし、寝床から立ち上がる。
ふらり、とほんの少しよろめく足に力を入れて。

「……薬とか本当に止めて欲しいね。僕らがどれだけ薬物に弱いか君は良くわかっているはずだ。」

「だって、こうでもしないとマリエッタ嬢はしっかり休もうとしないでしょう？」

「僕は“主”の為によかれ、と思ってそうしたまでですが？」

にしたって、他にやりかたもあるだろう？
そう口にしたいけれど、確かに強制的でもなければ僕は寝ようとはしなかった。
言われてもきっと起きていた。
……己の限界まで。

だって、そうでもしないと眠れないから。

らしくない話だけれど、最近になってどんどん眠るのが怖くなっている。
この殺伐とした世界、寝ている間に襲われて命を……なんて、あり得る話。
でもそうじゃない。

「寝ている間にさ、レナが何処か……もう二度と手の届かない場所へ行ってしまうんじゃないか、って。」

いつか、そういう日が来るんだろうな、という覚悟をしていないわけじゃあない。
でも、それが今日突然、明日急に、なんて。

「……？何か仰いました？」

「あっ……、…………、……いや、何でも……。」

ぽそりと呟いてしまった言葉は幸いにもノエルの耳には届かなかった。
こんな事知られたらどうせ「それは！！それはよくありませんねええええ！！！！」なんて騒ぎ立ててあわよくばアイツの所へ乗り込むだろうし。

「……いっそ僕もさ……」

「はい？」

「……いや、なんでもない。」

余計な思考を振り払って。
さぁて、今日も行ってやろうじゃないですか。

鉄臭い戦場へ、
　　　　―――相棒の元へ。

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