ENo.0505　セイラン＝ルーデ

「では、そのように頼む」

戦闘を無事終えた後。ミックと連絡を取り、連れ帰ったシドの面倒を見てもらうことにした。
機体はぼろぼろで、万全の状態まで手を入れるにはどうしても数日は掛かる。
その間、どちらかが彼の――身も蓋もなく言ってしまえば、面倒を見る必要がある。

此処は残像領域の外のモノが集う場所。
頼れる繋がりもなければ、いざという時に助けてくれる誰かもいない。
死んだとしても、誰かが悼んでくれるとも限らない。
それでもこうして、多少の助け合い程度なら出来る。
何も成さぬまま、死んでしまわないように。

「……あの趣味はちょっとどうかと思うが」

ぼやいたのは、シドのこと。一般的な人間がどういうものかは分からないが、少なくともあれがまともではないことは分かる。
……とはいえ、別に拒否するほどのものでもない。そもそも意思を持ったミジンコなんてものがいるのだから、今更だろう。
今回ミックに彼の僚機を押し付けたのは、別にシドの僚機がイヤだったからではなく、ミックの方が戦場を合わせやすいだろうと思ったためだ。
……シドには恐らく、『適性』がある。それが『彼女』にとって幸か不幸かは、分からないけれど。

「……さて、と」

今日はもうやることはない、これからどうするか……。
……明日は久しぶりの、一人の戦場だ。
気分を落ち着けるために、ぶらりと散歩に出かけることにした。

***

残像領域には謎が多い。
人や物資がひっきりなしに流れ着き、霊的な何かが物理的な損害をもたらし、霧や電磁波に戦場を左右される。
次の戦場の敵も、霧に呑まれた後に敵対行動を取るようになった部隊だという。

そんな謎だらけの世界でぼうっと立ち尽くす少女を見た時には、さて、どのような思いを抱くのが正しいのだろうか。


霧の濃い日だった。ぶらぶらと歩いていると、一層気が滅入りそうなほどに。
湿った風に嫌気が差しつつも、戻って何かをする気分でもない。しかし前方は、少し先も見えないほどの異様な霧に包まれている。
あの中に入り込もうとは思わない。ため息をつき、踵を返そうとしたところで……その霧が、唐突に晴れた。

その中から現れたのは、殺風景な荒野には不釣合いな少女だ。
しばらく立ち尽くしていたかと思うと、きょろきょろと周囲を見回し始める。
焦っている様子はなく、かといって何か明確な目的があるわけでもなさそうだ。
危機感のないその様子はまるで、何か物忘れでもしてしまったかのようで。

「こんばんは、こんなところで何を？」

少女の様子が何かにとてもよく似ているような気がして、気が付けば声を掛けていた。

残像領域のどこかの町にある、行き場のない者の寄り合い所。運営は気まぐれ。
利用・改築自由の集合住宅。2LDKの5階建て。
管理者に御用の方は、3階の角部屋まで。

***

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