ENo.0328　"Canary"

――リュー、"迷い子"、きみは、きみの家を見つけるんだ。

その言葉を聞いたのはどこだったろう。
思い出すより先に暗かった棺内が明るくなる。
HCSが始動し、モニターが光りだす。"Canary"の目覚め。

「まあ、今日も問題ねえな」

出撃前の最終チェックをひととおり済ませると、出入口が大きく開く。
あとは戦場に、今日のミッション、ランページ・ユニットのテストの場に向かうだけだ。

「……どうした、早く行け」

動き出さない"Canary"に訝しげな視線が向けられる。
ひとつ深呼吸をしてから、外部スピーカーの回線を開き、
棺の中から話しかける。

「昨日、病院に行った。お見舞い。タニアの」

「……？　お前なにを言って……ッ！？」

気づいた途端に彼の、フェルナンド・クーガーの顔つきが変わる。
今まで見せたことのない、焦りと怒りの混ざった表情。
隔てるものがなければ首を締め上げられていたかもしれない。

「シルウェストリス航空傘下、アウェス飛行研究所附属病院の特別病棟、3階、302号室。
　ライセンスを見せて入ったから、とっくに伝わってるかと思った」

「…………」

「もうここには戻らない。今後必要なものは手配した。
　最後の入金もさっき済ませたから確認して」

「……先週から妙にあちこち出掛けてると思えば、
　そんなことしてやがったのか」

「あなたたちが何をどう偽っていたかはだいたい分かった。
　でも分からないこともある。特に、なぜわたしを放っておくのか。
　いつだって、どうにだってできたはず」

「それは……」

「聞きたければ話してあげる」

そう言って格納庫に入ってきたのは大家、タニア・クーガーを名乗っていた女性。
彼女の本当の名は、アデラ・ウィラヴィ。
アウェス飛行研究所主任研究員、"鳥使い"プロジェクト担当官のひとり。

「今日も生きて戻ったなら。
　あの日、あなただけが戻ってきた、あの場所で」

たとえば、帰り道を見失った山中の崖から。
あるいは、あたたかなベッドで不思議な夢を見ながら。
もしくは、道路を走るトラックの前から。

自身が望むと望まざるとにかかわらず、
残存領域に入り込んでしまった子供たち。

彼らのほとんどは身寄りもなく、
何の後ろ盾もないまま霧深い戦場を彷徨う。

彼らが還る場所はもう、霧の中にしかない。