ENo.0071　パアム・ライザ

重く閉じたシャッターが、バチバチと音を立てながら切り裂かれて行く。
受話器は、遂に"つー"、という通信音すら鳴らさなくなり、外部との連絡手段は完全に絶たれた。

残されたシャッターは後二枚。それが切り裂かれる火花の軌跡が、私達の命の導火線だった。

「どうして……なんで、こんなことに」

娘が顔を伏せて言う。うずくまって、一歩も動けずにいる。

娘だけでもーー。私は、親として当然のことを考えた。
何度も何度も思索を巡らせた。
しかし、どのように？

外の連中の目的は分からない。しかし、恐らく私達はただではすまないだろう。
一縷の希望を持つには、彼らは余りにこの研究所に固執しすぎていた。

ーーーなぜ？

そう、何故彼等はここまでこの研究所に固執するのか。
クーデターであれば政権の奪取が目的の最優先事項、即ち戦力の奪取は二の次だ。

つまり、彼等の目的は研究所の破壊ではなく、成果の奪取。
であれば、成果物を破壊するような事はしないのではないか。

そう思った私は、娘をひっそりと連れ出した。
連れ出した先には、凍結されたプレディの外部操縦席ーーーの下に隠された脊髄直結試験用の操縦席だった。
ここならば、これがもし運び出されても、無事なままでいられるかもしれない。

シャッターが破られる音と、銃声が上階から聞こえてくる。
娘を、何事も無ければ救い出すと説得しその狭苦しい押し込むと、元通りにしまい込む。
これが、娘との今生の別れとなった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━

「どうして……なんで……？」

煌々と輝く電子掲示板を見上げ、下部の一部分を凝視する。

"663 猫ノ亡霊はランク外になり死亡した……"

前回はあのような表記は無かった筈だ。前々回は？ーーー覚えがない。

あの時、私は厄介だという理由で、あの猫が搭乗したハイドラに弾を撃ち込んだ。執拗に撃ち込んだはずだ。

死ぬとは思わずに。子供が虫を叩き落とすように。
その結果が死を産んだ。



　
死は、この場所において珍しくも無ければ、全く無関係でもない。

何人も死んだ者を見てきたし、なんなら、私自身も仕事の中で何人も殺してきたかもしれない。

だが。

だが、しかし。


名前の羅列の下で小さく表示される、たった十程度の文字列は、

私が、誰かを殺したのだという実感を、じわりと胸の底から滲ませて。



私は、堪えきれずに吐いた。

「研究って何を研究するんだ……？」

「……貴方を利用した兵装とか」

「勘弁してくれ」