ENo.0629　タデシマ夫妻

初老の男は、歯痒い気持ちを抱えていた。

現状の打開を求めて戦場に飛び出したはいいが、思うように戦果をあげられていない。
自然、得るものも得られず、目的の物の探索も進んでいない。

このままでは、よくないだろう。
自分のパイロットとしての腕が三流である事はわかっている。
だが、だとしても機体の整備と構築には一家言があるつもりだった。
しかし自分でも、いや、自分だからこそ分かる。
今の自分が組んだ機体はとても見れたものではない。

理由はわかっていた。
このままでは戦場に出た意味がない。多少無理をしてでも戦果を稼がなければならない。
だがかといって、同じ機体に乗る妻を、もう一度死なせる訳にもいかない。
2つの感情による葛藤が迷いとなって、機体に表れているのだ。

だがわかっていても、どうしようもない。
――やはりあの時どれほど抵抗されようとも、モノリを同行させるべきではなかったかもしれない――
そういう思いも過るが、だが自分の冷静な部分の思考がそれを否定する。
自分の腕前を見ろ、操縦だけで精一杯な現状を見ろ。
モノリの補助が無ければお前等、とっくのとうに戦場にこびりつく染みにになっていたはずだ、と。

実際、ショウテツ自身はともかくとして。
ショウテツが作り出したモノリの身体は、火器管制に素晴らしい適性を見せていた。
勿論、だからといってそれに甘えている訳にもいかない。それでうまくいっている訳でもないのだから。

ではどうすればいいか。ここで思考は堂々巡りを始める。
結局、問題がある事はわかっていても解決法が浮かんでいないのだからどうしようもない。

それでも頭を悩ませようとして……事務室の扉がノックされる。
モノリだ。出撃の時間が迫ってきたのだろう。
答えが出ていようと、出ていまいと、一度決めた以上は戦場に出なければならない。

胸に抱えたものと、扉の外で待っていた妻を見て再び渦巻き始めたもの。
それら全てを一旦胸の奥へと沈め、男は自らの機体へと向かう。
或いは、戦場がそれを霧の中に紛れさせてくれることを期待しながら。