ENo.0647　有明

時折、自分が存在している意味について考えることがある。
そんなものは考える必要などなく、意味があるならば自分で探し出すものだ、と。
分かってはいても、ついつい想いが先行して考えに耽ってしまうのだ。

しかし今日はいつもと違い、思考の檻から僕を解き放つ声があった。

『ねぇ、有明』

不意にかけられたそれに振り向き、僕は小さく首を傾げる。

『軽逆作ってくれない？』
「ん、どうして？」

逆関節と言えば、跳躍性能と旋回性能の高い脚部だ。
確かにそれだけを見れば、彼女より僕が作る方が性能が高くなる。
しかしそれは、彼女の機体コンセプトには合致しなかったはずなのだけど。

『いや、その……機動力足りなくて、旋回速度で勝負しようかと……』

……抱いていた疑問は、すぐに泡沫となって消え去った。
そういうことであれば、僕の出番であることには違いない。
なら、そうだな。たまには少し、からかってあげることにしよう。

「なるほどね。じゃあ僕が作る代わりに、おねーちゃんは何出してくれるの？身体？」
『えっ』

えっ？

「……なんか予想外の反応だな。まあいいや、代わりにレーダー作ってよ」
『え、あ、えー、うん、レーダーならこれくらいの索敵範囲に……』

いや、僕はもっとこう、『は？』って威圧してくるのとか、
ゴミを見るような目で見てくるとか。そんなリアクションを期待してたんだけど。
でも、初心なおねーちゃんも可愛……一応、もうちょっとからかってみるか。

「ところで」
『ところで？』
「おねーちゃん、初心なの？」
『…………』

そう、そうだよ、そういうの。
僕が望んでたのはそういう雰囲気。分かってんじゃん！
あっでも領域殲滅兵器のチャージは歓迎してないなぁ！

「きゃー、おねーちゃんこわーい」
『蜂の巣にしてやるから止まってなさい』

後ろでエネルギーチャージを進める少女から逃げるように、
僕は急いで機体のエンジンを吹かし、霧を撒き散らしながら飛び出した。

どうして笑ってるんだって？いやいや、笑顔に理由なんて必要ないだろう？