ENo.0256　バルトロイ・クルーガー

画面に溢れる新着の文字をひとつずつクリックしては、中身を流し読みする。
ここ最近ずいぶんと流れてくるメッセージの量が増えた。不可解な内容も含めて。

「……」

はあ、と息を吐いて大した中身も覚えてないメッセージを削除してそのままタブレットを置くと、ベッドに転がった。
昔はもっと自由だった気がする。それは、自分がいつ死んでもいいと思っていたからだ。なにも怖くなかったから、回りがどうなろうと気にすることはなかった。
では、今はどうだろうか。
何かが怖くて怯えることはないが、回りのことに敏感になった気がする。
企業連盟、メルサリア、辺境、要塞……霧の領域を取り巻く様々なものがずっとずっと絡み合っている。昔ならそんなことも気にせず与えられたミッションをこなして報酬を得てそれでよかったのに。
気にするものが増えたし、背負うものも少しできた気がする。今までがおかしかったのだと言われればそうかもしれない。
そして、懸念がもうひとつ。
要塞戦の配置についてだ。
先程おいたタブレットを横目でちらりと見て息を吐いた。
最近楽をしていたとまでは言わないが、久し振りにデータ上は不利な場所を引いたようだ。実際蓋を開けたら大丈夫だった話なんて割とあるのであくまで現在手元にあるデータ上の話だが。
それでも、万が一の想像はする。撤退戦を余儀なくされる可能性だってゼロではないのだ。

（もし、そうなったとしたら……）

そういうときは自分が犠牲になるべきだと考えるのが常で、どうすれば時間を稼げるか、までシミュレーションをしていた。
ただ、それを……

（あいつは、許してくれるんだろうか）

相棒で、恋人で、恐らくその時隣にいてくれるだろう彼女は何て言うのだろう。

（ああ、でも、わかんねえんだ。）

死ぬために生きてきたから、その生き方しか知らない。
死線をくぐり抜ければ生き延びれたから、そんな戦い方しかわからない。
この死線を抜けたら見えるものがあるだろうか。そうであって欲しい。
空を飛んで見た霧の向こう側は驚く程に青く、澄みきっていた。きっと、この思考の霧の先も同じであるとそう、願っている。

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