ENo.0134　ギルデンロウ

　かつてヨハンに薦められるまま、奴に紹介された女と結婚をした。
俺は知らなかったが、有名なアナウンサーで、胸が大きかった。
　俺の記憶が正しければ、あの女は二回妊娠して、その内の一回は堕胎した。
　一度目と二度目のどちらが俺の子だったのか、両方ともそうだったのかはわからないが、弁護士に言わせれば、堕胎の強要（記憶に無い話だが、特におかしくはない）と俺の教育への無関心は裁判の結果に不利に影響したらしい。

　子どもが好きな訳ではなかった。
それ以上に、親、という言葉に関わるのが嫌だったと思う。
　死にたくて死ぬ人間は少ないが、生まれたくて生まれた人間は一人もいないはずだ。

『ハイドラ乗りは戦場にある限り、死と隣り合わせの存在だ。
実体剣やレーザーブレードなどを機体に握らせ、
火器を目前に対面して戦う格闘機乗りなら、死と重ね合わせの存在といっていい。
　敵の中に孤立しながら、斬り開いた敵機の残骸の奥に、同じく剣を振るう味方機を識別することがある。
会話がなくとも、そのような面子を幾度も見つけていると、僅かな連帯感を抱くものだ。
遅かれ早かれ、奴らの姿は見ないようになる。
「奴は霧になったんだ」感傷混じりに言う奴がいた。
俺もいつかはそうなるのかもしれない。しかし俺たちは剣を握ることをやめない。
名誉のため。生きてる実感のため。病的な矜持のため。あるいは死ぬために、剣を握らなくてはならない。
　……そして敵陣の中で、また新しい顔を見るようになる。“物好き”は次々やってくるのさ。
だって、残像領域はそもそも“物好き”のための場所だろ？』
　――そんなことを言ってたアイツは、つい昨日で、霧になったよ。