ENo.0261　Solitus

生きる目的も、叶えたいものも、自分にはずっとなかった。
機械と壁で囲われた世界で、与えられるものだけを食べて生きていたのが自分だった。

外に出る前のソーナという少女は、それはそれは機械的で人形のような印象がある子供だった。
今でこそ、彼女を外へ連れ出したカナエの影響で少しだけ笑ったり、やりたいと思ったことはカナエに相談してやってみるようになっているが、カナエと出会ったばかりのソーナは本当に何もしない――いや、何もできない少女だった。

やってみたいと思ったことは全て却下され。
食べたいと思ったものは理由をつけて食べさせてもらえず。
自分の目で外の世界を見つめることすら許されず。
自らの足で外の世界を歩く自由すら奪われた。

あらゆるものを取り上げられ、かわりに与えられるものだけを食べるうち、ソーナは自分の意思では何も行動をすることができなくなってしまっていた。
こんなにも人形のような状態になるのかと、カナエが内心恐ろしさで震えたくらいには。

――そんな暮らしをしていたからだろうか。
ボイスメッセージを聞いたとき、ソーナの心には夢も叶えたいものも何も思い浮かばなかった。
あのボイスメッセージでは、人は夢や叶えたいもののために生きると言っていた――ならば、今の自分は生きているといえるのだろうか。
呼吸はしている。心臓も動いている。それでも――今の自分は、ちゃんと生きているのだろうか。

「……、……」
「……ソナ？　どうしたの、そんな難しい顔してさぁ」
「なんでもない」

相方に声をかけられ、はっと思考の海から引き戻される。
カナエのほうを見てゆっくりと首を横に振れば、彼は不思議そうな顔をしていたが、納得したように小さく頷いて再びソリトゥスと向かい合った。
カナエは今、とてもわくわくしているし、きらきらしていると思う――ソーナの予想どおり面倒事には巻き込まれてしまったけれど、自分たちの首についていた首輪を引きちぎった彼は今、飼い主だった存在の喉元に噛みつく瞬間を楽しみにしている。
今のカナエの夢といえるものは、それを実現させる瞬間なのだろう。

長らく感じていなかった空虚感がソーナの胸に広がる。
この戦いが終わるまでに――自分も、何かやりたいことを見つけることができるだろうか？