ENo.0683　オスカー・ヘンズレイ

スピーカーからノイズ混じりに流れてくるチェックリストに淡々とコピー（了解）を返し
ようやく“全て正常（オールグリーン）”の表示が出た時、次はもっといいスピーカーに
交換しようと決意した。あとシステム音声も女のものに変更しよう。

　いざ実戦でコンセントの抜けたトースターになるのはゴメンだからな……と誰に聞かせるでもなく呟きながら
操縦棺から出たところでタバコに火をつけた。
信頼出来る整備技師が居ない今は自分で何とかするしかない……面倒だが、怠れば文字通り棺桶になる。
撃墜されるのは運次第だが墜落するのはただのマヌケだ。

　いつから“ここ”に自分がいたのかあまりよく覚えていない。
気がついたらこの機体に乗り、戦い、運よく帰還出来たなら報酬を貰って休息して
そしてまた次の指令に備えて整備して……まぁ、いつもの事だ。深く考える必要もないだろう。
自室に戻ったところで吸い終わりのタバコを灰皿にねじ込みベッドに横になる。
ヤニで黄ばんだ天井の染みを眺めながら、最近よく見る夢のことをぼんやりと思い出していた。

　……笑顔で自分に手を振る少女と、その傍らで控えめに笑む女
あれは、誰なんだろう……

　やがて自分の意識も、この世界を覆う霧のように輪郭を失い始めた。
このまま目を閉じればまた会えるかもしれない。そう期待して眠りの波に身を任せた。