ENo.0614　ルーチェ・アーミスト

──初めて機体が墜ちた。
あまりの猛攻に索敵が追い付かず、無理に前に出て索敵範囲を広げようとしたばかりに敵機に囲まれてしまったのだ。
恐ろしいほどの集中砲火。
自動的にコクピットが開かれ、強制的にベイルアウト。
私は戦闘離脱となった。
索敵の大半を担っていた私と儚が墜ちたことにより部隊は混乱に陥り、結果壊滅的な被害を出してしまった。

・・・・・・

ルーチェは木陰でぼんやりと空を眺めていた。
とはいえ霧に包まれた空だ。
沈んだ気を晴らすには、足りないものが多すぎる。

「あの、お疲れ様です......。お隣いいですか？」
「儚......」

彼女からコンタクトを取ってくるのは珍しい。
気を遣っているのだろうか？
人の顔色をよく伺うということは、他者の気持ちを一身に受けやすい。
彼女の性格上、心配を掛けてしまったのだろう。

「今回は残念だったねー。ごめんね？私がリードしなきゃいけないのに焦っちゃって」

儚の顔を見るなり、ルーチェは笑顔で、なるべくいつも通りに振る舞った。
......つもりだった。
しかしどうも隣に座った少女は、予想よりも遥かに他人を観察していたらしい。

「普段のルーチェさんなら、謝るよりも先に次は頑張ろうと言ってくれます。今回の任務、何か引っ掛かることでもありましたか？」

なんと声を掛けるか読んでいたかのような、美しいとでも形容できそうなほどの質問のクロスカウンター。
面食らったルーチェはしばし言葉を詰まらせる。

「......私ね、前にセイランに『無茶な機動はしないで』って言ったの。あの子、きっと機体が墜ちかけても離脱せずに最後まで戦うから......いつか死んじゃうんじゃないかって心配で......」

儚は口を挟まずに静かに頷く。
なんとなく、気持ちは察してくれているようだ。
ルーチェは話を続ける。

「今回の失敗の原因は、私の無茶な前進......。儚もそうだけど、部隊を丸々巻き込んだって言ってもおかしくない......。セイランよりも、ずっと酷いことしてる......。それでちょっと怖くなっちゃって......」
「出撃するのが......ですか？」

儚からの問いに、小さく頷く。
墜ちる直前の恐怖もさることながら、同じ失敗を繰り返したくないという逃避、仲間からの信用をこれ以上失いたくないという保身的思考が一斉に降りかかっていた。
『もし失敗したら......』と任務前にちらつく程度に考えることはあったが、想像を絶する重さだった。

「私は、ルーチェさんに責任があるとは思いません」
「え......？」

儚は微笑んで言葉を紡ぐ。

「だってルーチェさん、私より先輩って言っても出撃回数はそんなに変わりませんよね？なのにあんなに強い敵に攻め込まれても仲間のために前に出たんです。誰が攻められるんですか？」
「それは......。でも判断ミスだったのは確かだし......」
「あのまま半端な索敵を続けてもいずれは負けていました。間違ってなんかいません。私があなたの立場だったら、それが出来るかどうか......」

勇気のある行動だったと、儚はそっとルーチェの手を握る。

「......っ！ありっ......ありがとっ......儚ちゃっ......」

嗚咽混じりに儚へと礼を言う彼女の目からは涙が溢れていた。
この慰めが無ければ、次に出撃してもろくな戦闘が出来なかっただろう。
ルーチェはしばらく泣きじゃくり、儚は静かに彼女を撫でていた。
己の身を守るためにも、仲間達の命を守るためにも、もっと強くなろう。
泣きながら、彼女はそう胸に誓った。

残像領域のどこかの町にある、行き場のない者の寄り合い所。運営は気まぐれ。
利用・改築自由の集合住宅。2LDKの5階建て。
管理者に御用の方は、3階の角部屋まで。

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ユニオン活動：現在は制御*5
ユニオン購入：経験値+1、またはAP+10%