ENo.0406　ファイブカード

　
最近は自分の体について調べている。
この肉体は、我が愛娘───『ファイブカード』に与えられたものだ。
本来の肉体はとうに滅び去っていることを儂は知っている。
だからこそ、諸々の可不可や要不要は知っておかなければならない。



まずは食事。これは不要。
腹は減る。減るし美味いものを食えば美味いと感じる。
しかし飲まず食わずのまま居ても飢えが増してゆくことはなかった。
緩い空腹感がそのまま続き、しかしそれだけ。便利な体になったもんだ。

次に睡眠。これは必要だった。
どうやら眠ることは精神を保つために必要らしい。
入れ物じゃあなく中身を保持するための行いってことだろう。
試しに寝なかったらマジでもう一度死ぬかと思った。ちゃんと寝ること。

生殖の可否は試すに値しない。
排泄は食事に連動する。飲まず食わずなら不要。
怪我を負えば血も出る。病への耐性は不明。
代謝全般は相当低い。

……こんなところか。
どうやら生前の暮らしってやつを繰り返しやすいように出来ているらしい。



ああ、そして。
儂の記憶は最期を迎える処まで全て残っている。
82歳の知識と精神そのままで。

しかし、この体は20歳を上回るか上回らないか、そのくらいの時分のものだった。
儂がまだハイドラライダーとして日銭を稼いでいた頃の。

───なんとも分かりやすい話じゃあないか。
『ファイブカード』は、儂に与える肉体としてこれを選んだのだ。
儂にかつて在ったハイドラライダーとしての役目を与えたのだ。
その体で以って自らを駆れと。

健気な娘だ。

かつての乗り手たちの遺したもの。

今は霧の立ち込めるハイドラの開発プラントとしてここに在る。
かのハイドラを生み出した者と、生み出した場とがここに在る。