ENo.0579　オルハ・Ｄ・マインド

リタが持ってきてくれた重湯を掬って口へ運ぶ。
重湯というのは、粘度と味があるスープ…とも違うし、不思議な感じだった。

「……リタとフェデルタは、……」
どこでどんな縁が繋がっているかは分からないもんだ。

深い深い、深淵の世界。
所属するコミュニティこそ違ったけど、それぞれのコミュニティでの役割は似ていたから話すこともあった。
修繕と作製。装備を直したり、作ったりしていた。
顔は火傷のせいもあってか、強面って感じだったけど、オレが知ってる限りではそんなに悪い奴って感じじゃなかった。

分かる気がする――

死ぬってことは一つの終わり。

だけど、俺達は死ぬことが「一区切り」になっていた。
そっからもう一度はじまったんだ。


永遠の命がほしいわけじゃない。
いつかは終わることだ。
それが、今なのか、もっと先なのか――

「寂しい、か……」
そうリタが言ってくれた時うれしいと思った。
色んな世界を自分の意思とは関係なく転々とする俺は、「はじめまして」はあっても、「さよなら」は突然で、言えないまま。
フェデルタは死んだ時にリタに思われていた。
そして、死んだ後も――
誰かに長くずっと思われる、というのはとても羨ましく思う。
次にどこに行くかも分からない俺は、誰かが思っていてくれるかも確かめる手段もなくて。

あの様子だと、リタは死後の…深淵の世界を出たフェデルタに会っている。
その時、どう思ったんだろうか。

俺は、俺達は元の体を離れて、あの地下深い世界で体を得た。

あまり考えないようにしている。

体の調子が悪いと嫌な考えばかり浮かぶ。

俺は、俺達は、「オルハ」の形をしたナニカ別のものなんじゃないだろうか。

一番最初、俺が生きていた場所へ行けたとしたら、その墓があるであろうその下を掘ったら、きっと俺が居る。

魂の証明が出来れば俺かもしれない、できなければ記録と記憶を持ったナニカなんだろう。



この世界では残像という存在がある。
死ぬと残像になると、聞いた。
戦場で、ふっと現れる。それは、何度か見たことある。
霧の中の幻影なのか、もっと違うものなのか。
残像は残像でしかないのか、もしも残像は自分が残像だと思っていなくて、いつも最後に迎えた1日を何度も繰り返しているとしたら――
「戦場以外で死んだら、どうなるんだろうな」

生きていたい、いつまでも生きられるわけじゃない、いつかは死ぬ、どう死ぬべきか、どうあるべきか、どうしたいか、どう思われたいか――

ない交ぜの気持ちと思考の中、ベッドの上で書くのはパーツの設計図。
いつも何か作るのは、いつも何かを残したいからかもしれない。
でも、そのうちこの作ったパーツももっといいパーツに取り替えられて忘れられていくだろう。

行く世界はいつも「異国の地」。いつかは忘れられていく。俺は一瞬だけすれ違う残像みたいなもの。

コマルに手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめた。
「戦場で、いや戦場じゃなくても死ぬのがこわいのは……」
誰にも思われず、忘れられていくかもしれない。それが、こわい。

オルハが臨時で作ったユニオン。
反応をあげ隊。