ENo.0276　ローデット・ダイス

生き続けることは死ぬより難しい――


「んー……こんなもんか」


戦果を見てなんとも言えない表情をした。
確かにランページ・ユニットは自衛にはなる、その対価に支援を失う。
まあ他にもバルーナスからのミッション依頼は
シャドウはおろか、ルミナス、カルマといないので正直余裕だ。
色々試すいい機会ではあるが逆に物足りなくも感じる
いい加減この信用を切り捨てるか迷うところでもあるが、とりあえず現状は維持。

他の戦場の結果をタブレットで確認しながら、動かしていた指がピタリと止まる。
『死亡者リスト』
バルトが死亡許容をやめたからそこまで気に留めていなかったが
話す相手には死亡許容をしている者もいるだろう、それを止める義理もない。
それが戦場と割り切ってる、筈だった。
そこに見覚えのある名前が、二つ。


彼女は幽霊の自分に体を手に入れて恩人だと自分にわざわざ礼を言いに来た。
恩人と言われたときはなんだかくすぐったいものがあったりもした。
握手を求め、壊さないようにできるだけ大事にするといい、
ニーユや周りのみんなと楽しくしたいと言っていた。
触れたくても触れられない、ヒューマノイド越しでしかほぼ世界を見ていなかった自分には
それが刺さったから、少しでも澪の願いが叶って良かったと思っていた。


彼女は最後何かが怖いと言った、何が怖いのか、聞きたくても聞けない。
最初おぼつかない様子だったけど、戦果も時折上位に載っていたのは見たし
なにより、キリトが背中任せるくらいだから、もう十分にやっていけてるんだなとは思った。
それでも本人はすぐにもごもごと悩んで、すぐにでも泣きそうな面して
でもしっかりと意志を貫く奴だった、戦場という場所がそうさせたのかもしれないが。


今の戦場は前程優しくはなく、必ず誰かが撃墜される場所もある。
その撃墜される誰かが生きるか死ぬかはそいつの志次第って訳になる。


「おい、メンテ始めるぞ」

「……ああ」


ヒューマノイドっていうのは熱は表せても青ざめるのは表せないのか
強気で見られていると思えば、それはありがたいことだ。
なんて、思いながらメンテナンスに入る。
メンテナンスの間は、少しの時間だけれどミヅカ本人として動ける貴重な時間だ。
ただ、動こうとしても上手く動けなくて、通信を入れた。


「……バルト」


通信を入れるその声はヒューマノイドの合成音声ではなくて肉声。


『ミヅカか？どうした、突然ダイスじゃなく連絡寄越して』

「気持ち悪い……吐き、そう」

『……すぐ行く、待てるか？』

「多分、吐く……」


馬鹿野郎！という叫びと共に通信が切れた。
現にすぐにでも吐きそうだった、バルトを探していた時と似たような胃液が上がるような感覚。
一人で耐えられると、世界を見るのがダイスなら関係ないと思っていたのに。


「おいっ、何処だ！大丈夫なンだろうな！？」


声を荒げて入ってきてミヅカを探す彼の目に移った表情は青ざめていた。
慌てて近くに寄ってきて座り込み、背中を擦り眉を寄せた。


「どうした、何があった？」

「……正直、誰が死のうが関係ないし……仕方ないって思った」

「……」

「でも、他人と知人だけで、変わるんだな……」

「ああ」

「……何でそんな死ぬ覚悟で戦えるんだ。お前なら、分かるのか？」


バルトは一時期戦場で死ぬとも言っていた奴だ、こいつなら分かるのか。
私には全く分からなかった、分かることはこの扉の向こうを出ることは
ダイスとしてではないと行動することが怖いということだ。
それは以前十分わかったし、ましてや戦場で死ぬ覚悟なんて、まるでない。
ただの金と情報稼ぎのハイドラ乗りだ、死が怖い、生きれるなら醜かろうが生きる。


「とりあえず無理すンな、横になれ」


まだ顔が青いのか、というより寝ていた方がいいような顔でもしてたのか
ベッドに運ばれては大人しく横になって、バルトが持ってきた水を持って落ち着いた。
口の中はまだ気持ちが悪い。


「コレが、お前の探してる答えなのかはわかンねえけど……」

「けど……？」

「……長く戦場走ってりゃ、知り合いが死ぬなんてのはブチ当たる話でよ。
昨日まで笑って話してたヤツがいなくなる……ってのは、オレもあった」

「……」


それもそうだ、私みたいなサポートよりもバルトみたいな奴の方が知人は亡くす。
それにバルトは根っからの戦場好きだ、そして年も離れている分経験も違う。
あってもおかしくない話だ、だからこそ、答えが知りたい。


「正直オレは戦場で終わるのがいいって、ホントにそう思ってたから。
それはそういうモンだって、それで済ませてたんだけどよ……」

「……今もそう思ってんのか？」

「思ってたって言ったろ！今は違ぇよ、最後まで聞け！」

「悪い……」


いつもより真剣に、悩んでいるのか大人しい様子でバルトは口を開いてぽつぽつと語り始めた。


「難しいな。ひとことで答えられるモンでもねえし、そもそも答えがあるモンでもねえ」

「……」

「……けど、どうしたって掴みたいモノってのがあったんじゃねえかなって。命を賭けても。
……お前は、命が一番大事って言うかもけどよ……オレの為に、命懸けで探してくれたじゃねえか」

「だってそれは……！」

「それに近いような感じなンじゃねえの、上手く言えねえけどさ」


確かに正論だ、モニカなんてまさにそんな感じだったと思う。
命かけても戦場に飛び出してやりたいことがあって
私にとっての命懸けのときがバルトを探し出したいときで
モニカや澪はきっと戦場の中にそういうものがあったんだろう。


「……生きてるオレ達に出来るのは、そいつらの死を悼んでうじうじする事より、
そいつらの分まで前向いて生きることだ！って……今ならそう言える」

「……うん」


前向かなきゃいけないな、とも思ったけれど
今日だけは、一人でいるのが辛かった。
メンテが終わってダイスに戻れば、背負うなんてガラじゃないから
あいつらのことを背負うことはないけれど、前向いて生きようと思う。


「……今日くらい一緒にいるか？」

「いいのか……？」

「前向いて生きろっつっても、今日の今日でいきなり切り替えるの、お前は難しいだろ」

「……悪い。ありがと」

とあるものを求める為の集まり場。
それが何であろうと構わない、情報収集の場でもある。


制御*5、ユニオン購入は適当