ENo.0535　クロノワール・ナイン

決戦数日前、今日も今日とて例の"お祭り"に向けてのミーティングを終え、座りっぱなしだった疲れを解すために湯船に浸かりながら、彼女は決行日に向けて思考を走らせる。
そもそも、何故こうなったのか？ギルデンロウからのメッセージを受け取り、"生き返った"彼女は情報の精査を、惰性ではなく、能動的に行い、集めてきた。今回のミーティングでも、一部のハイドラライダーたちがそんな話をしていたな、と思い出す。

「……噂の、敵の"強さ"が止まらない」

「絶対に"消耗を"強いられる、最近の戦場、ね」

馬鹿馬鹿しい、と笑って捨てることは出来ない"何かが"そこにはあった。
誰かが言っていた「最近の戦場での消耗率は可笑しい」との一言。確かに見返してみると明らかに"可笑しい"。――ハイドラライダーたちの消耗率が、とある日から「一定より高くなる」ことがなくなったのである。100%ではなくとも、90%は誇っていただろうメンバー、戦場でさえも。
――70%を超える生存率の戦場が、消え去ったのだ。
"禁忌補正"とやらが、報酬で受け取る事になった、あの日からそれは始まった。
そう漏らしたのは誰だったのやら、ちゃぷん、と湯船に頭までつかる。
深く考えることは苦手だ、嫌いではないが。どうせ研究者ではない、というのが勝る。何かを探っていくのはそれはそれで愉しいのだけれど――……。思考の迷子に、リセットを掛ける。
顔を上げて、近くにおいてあるタオルで拭うと、事の発端を思い出す。

「あのギルデンロウが集め、あのリー・インが発破をかけ。
　企画された、この"お祭り"」

「――それへの答えが見えると、また。
　面白いのだけれど、ね」

そう、それは面白いことになるだろう。この不思議な"戦争"を解き明かす。最近のきな臭い情勢に対しての一つの答えが見えるのかもしれない、そう考えるとさすがの私でも謎を解き明かそう、なんて、考える。


――だけれど、そもそもの話。

「その結果を私は見れるのかしら……」

ま、どっちでもいいわ。
私は研究者ではなく、傭兵なのだから――、と。"死ぬことに対してごまかしを行いながら"最後に戦闘システムプランを送信したディスプレイを撫でる。

そこには「ティタンフォート」と書かれたシステム名があった。
彼女-クロノワール・ナイン-にとっての"核"である狙撃と――引き継いで来た"タンク"。
両者は捨て、より高みへと至ったアセンブル。自分の実力。これまでの、経験。

「やれやれ、タンクではないのに"Tank"役とはねぇ。
　因果なものよね、杵柄、というものは」

「最近、索敵に徹しすぎていたからね」

「……思ったより懸念事項は多かったわね、やれやれ」

――いつものように、ため息がひとつ。

でも、ここ数週間"死んでいた"彼女の顔には、笑顔が浮かんでいた。

星を撃ち落とすように――
そして、一瞬の流れ星のように。


我らは撃つ。