ENo.0276　ローデット・ダイス

「再起動を意図的に起こす？」

「おう。まあ、ここ最近温い戦場続きだったからよ……結構危ねえから、無理にとは言わんが」


酒場でバルトはそう言ってこちらの反応を酒を飲みながら待った。
っていうと、あれか。以前広域通信でリー・インという男が流していた――


『協同の依頼だ。
腕前と積極性に覚えがある者を募り、禁忌の集中する主攻正面を強襲突破、
以って新体制によるハイドラ大隊殲滅を頓挫させイオノスフェア攻略を円滑ならしめる』


とか言ってたあれか、確かもう一人、ギルデンロウの名前も出ていた。
だとすれば、彼から誘いが出ていたとしても別に不思議な話ではない。


『”力”と”意志”が必要だ。規模の関係上集中攻撃の意図の秘匿は不可能だ。
全力で対抗されるだろう。 当然、危険な戦場となる。力無き者は生き残らない。意志無き者は役に立たない。
全てを押し退けて挑むなら、その理由が何であれ。金であれ名誉であれ、他人には理解の及ばぬものであれ。
俺達は、君達にこそ協力を請いたいと思う…無論選別するが。連絡を待っている。』


どうしたものかと暫く考えていたが、恐らく損ではない。
シャドウやら限界が知れるとすればこちらとしてはデータを取るのに十分だ。
長く戦えるのならばその分報酬も戦果も高くなるだろう。
生ぬるい戦果や上の信用を稼ぐことにもそろそろ飽きてきたところだ。


「わかった、付き合う」

「……大丈夫かよ」


こちらが了承すれば、バルトは予想外だったようで
というより、誘うときから前のことを心配しているのだろう、危ないからと無理強いはしないと言ったり
何の為の僚機なんだと大袈裟に溜息を吐いた。


「誘っといてなんだそりゃ？」

「こうもあっさりOKすると思わなかったンだよ……その、あれ」


バルトが言いにくそうにしていると、その様子を見ておかしくなって
安酒の入ったグラスをゆすりながら笑みを浮かべた。


「ああ、あれはあれ。これはこれ、だよ。バルトが思ってるよりは、私だって切り替え出来るって事だ。
上手くいけば再起動の生データに、多目の報酬だろ？上等さ」

「……そういうヤツだったよな、お前」

「そういうこと」

「じゃあ、頼りにしてるぜ。相棒」


揺らしているグラスにバルトが自分のグラスをあてるとそれを一気に飲んだ。
相談するときとは違って満足そうに、それを見ればこちらもグラスの酒を一口飲んだ。


そして後日、ブロックのメンバーの一覧表を見ながら一息ついた。


（とりあえず、同じブロックに知った顔はいない、と）


ついでに死亡許容している奴もいなければガラにもなく安堵してしまう。
ハクという奴がしていたみたいだが、ブロックごとの作戦会議で生存優先に変えるらしい。
つまり撃墜はされても酷くて怪我、死亡することはないだろう。
休暇も多いが、反面頼りになる奴も多い、流石そういった"意志"を持った連中だ。
これだったらいけるところまでいけるんじゃないだろうかと錯覚できそうだ。
私のやることはいつもどおり、変わらないということは評価されているとも捉えていいと思う。
一つ気にかかっているがそれはこの戦場の後だ、今はこちらに集中しよう。
あの水銀のことは――


◆　◆　◆


「なあ、片腕って資金足りてるよな。次回間に合うか？」


自身のメンテナンスが終わって整備士に尋ねる。
どうせ真剣にやるなら片腕よりは両腕でした方がやりやすいに決まってる。
地道に貯め込んだ資金はいい加減に貯まっていてもおかしくない。


「できないこともないが……そういうのメンテが終わってから言うのやめないか」

「メンテ終わった後に思ったから言ったんだよ。不具合も特になかっただ……」


起き上がって背伸びをしようとしたところで片目、右目の方がぼやけて見えた。
メンテナンスの前は確かこんなことはなかったと思うのだが。


「おい、下手くそ。メンテナンス終わったんじゃねえのかよ」

「どっか調子悪かったか？」

「右目、ぼやけるんだがちゃんと確認したのか」

「やっぱり試したの失敗だったかなあ……」


聞こえたのはやっぱりという声、思わずそちらを振り向いた。
試したのが失敗したってなんだ、そういった不穏な単語は今聞きたくなかった。


「ちょっと待て、そういう試したとかいきなり言うのやめろ、何しやがった」

「新しい眼を開発してたんだよ、で、それを試した」

「だからそういうの前以って言え、次回真剣にやらなきゃいけねえんだよ！」

「戻せば問題ないから、じゃあもう一度メンテするから」

「ったく……人の眼に何しやがる。だいたい何開発したんだよ」

「水銀入れたやつ。作り方間違ったか反応が偽物だったかどちらかだろうな」

「ふーん……」


そう言いながらメンテナンスに再び入ろうとして、ピタリと止まる。
水銀、って今こいつは言ったのか？


「ちょっと待て、どういう……！？」

「んじゃ、メンテナンスもう一度開始するから」


そこで強制的に画面と接続がシャットダウンされた。
会話を続けられないもどかしさになんともいえないような気分になり
メンテナンスが終わったらすぐに問いたださねばいけない
それは『ヴァリアブル』だったのか、と――

目が覚めると今度は両目も正常だった。
体も正常、そうなると早くこいつに問わなければならない。


「おい、お前メンテ入る前水銀って言ってたよな！？」

「目は正常に見えるか？」

「ああ、見える見える！それはいいから早く――」


そこで通信が入る、次のブロックの作戦会議だ。
流石にあの作戦を試す規模となると僚機だけの話し合いというわけにもいかない。
ちっ、と舌打ちして通信に反応するしかなかった。


「いいか、後で必ず聞くからな！」

「はいはい、分かったから早く通信出ろって」

「ああ……」

とあるものを求める為の集まり場。
それが何であろうと構わない、情報収集の場でもある。


制御*5、ユニオン購入は適当