ENo.0134　ギルデンロウ

　オフシーズンのある夜中、ヨハン・ギルデンロウの意識がないと連絡を受け、俺はその女を起こして車を出させた。暗闇を走る中、自分がその場に行っても何も変わらない事にふと気づいて、自宅へ戻り、その女とセックスをして寝た。その次の日にヨハンが死んだ事を知った。三ヵ月後のワールド・チャンピオン・シップでEGAは6年ぶりに優勝を逃した。しばらくして、子どもが生まれた。しばらくして、俺は煙草を吸い始めた。一年後のヨーロッパ大会でEGAはWCSの切符を手に入れ損ねた。一年と半年後、俺はEGAを解雇された。しばらくして、その女と子どもはいなくなった。しばらくして、ジョット・ノアイは結局来なかった。予想通りだった。俺たちとは違う。残像領域のハイドラライダーは所詮ただの傭兵業だ。戦いに勝敗と合理性以外のノイズを持ち込む連中だ。空疎だ。奴はその俗物どもの王だ。ギルデンロウは結果で奴らを冷笑した。それも空疎だった。オレは飽きた。なあ、俺がお前に結婚を薦める理由はわかるか？俺たちの選手生命はボクサーより短い。現に俺も現役じゃないしな。寂しいのね。お前がそう在りたいからだ。あんたを産んでしまえば、愛してもらえると思ったのに。かわいそうな母さん。私がお金の為に貴方のわがままを聞いてあげてたって思ってるでしょう？オレにとって何の価値があるっていうんだ。息子だったか娘だったかも覚えてないな。自信なんてなかった。どうして自分がこのゲームが好きなのか、って、考えたことはあるか？どうしてオレはこのゲームが好きなんだろうか？



*

「おはよう。よく眠れたか？」
「ああ、よく眠れたよ。久しぶりにな」
「ホントかよ」
「クリアなつもりだ」
「ふーん……」
「もう行くのか？お前は」
「こっちの集合は、大将サマんとこより早いんでね。ここでお別れだな」
「わかった。行ってこい」
「あいあい」

「ルカ」
「ん？」
「いや。なんでもねえや」
「そうかい」

*

俺が残像なのか、そうではないのか。
どのみち、この霧が晴れればハッキリするだろう。
やれることをやりたい。やりたいと思えることを。