ENo.0107　戦闘人形『カラミティ』

…………ｽﾞﾙｽﾞﾙ



はぁ、今日も蕎麦が美味しい

この細い大量の線は『麺』と呼ばれるものらしい
この麺、絶妙な硬さに調整してあり、簡単には千切れないが噛み切ることは容易い

そして、この液……『汁』と呼ばれている

これがまた絶妙に麺と絡み合い、互いの持ち味を殺すことなく
うまく調和を保っている、麺は汁の中を泳ぎ、熱と味を口の中へ運ぶ
熱すぎるのには注意だが、うまく冷ましながら食べればその味は幸福的だ



ちなみに此処は霞そば 残像領域支店と呼ばれているらしい
我が恩人が勤めているお店だ



初めて食べた時から、この蕎麦という食べ物に惚れてしまった
味について何もわからぬ我が初めて口にしたものがこれだった
食べた時に味わったあの幸福感、そして満たされる感覚は
なかなかに中毒性があるものだと思う



かといって2杯も食べれるわけではない
どうやら我の身体そこまで容量はないらしい
燃料を注ぎすぎてもダメなのと同じか、ここは

まあいいさ、十分に満たされた、お代を払って店を出る
退店際に、メドの顔が見えた、あちらも此方を捕捉したようで、軽くお辞儀をしてくれた

我は微笑みをくれてやった






――――――――――――――――――――――――――――――――――――




決戦の直前

『……カラミティ』

「どうした、イビルフォース」

『貴方が生き生きとしてくれて、本当によかったと思います
　只の兵器ではなく、一つの生命として、今は動いてるように見えます
　その姿は、私や――きっと、バディル様も望んでいたでしょう』

「誰かのために、というわけではなかったのだがな
　だが貴様がそう言ってくれるのは嬉しいぞイビルフォース
　我も、こうしてよかったと思っている
　今まで見えなかったものが、よく見える」

『ええ、貴方は過去ではなく未来を見るようになりましたね
　今までは――そう、天界への復讐のことばかりでしたから
　それに、貴方は自分のことを兵器だと言ってやまない方でしたし』

「今でも我は兵器だと思っているぞ――ただ、兵器なだけが役割ではないだけだ
　結局、我の本領は闘争なんだ、今はまだそう
　もしかしたら、それ以外の道を、これから先に見つけるかもしれない」

『私はそれを望んでいます
　貴方が、もっと広々とした世界で生きていくのを、祈っていますよ
　誰に祈るというわけではありませんが、もう私は天界の兵ではないですし』

「……イビルフォース、我が愛機よ
　貴様ももう少し我儘を言っていいんだぞ？
　あまりに献身的過ぎても、少し心苦しい」

『いいんですよ、私は……結局、貴方が居ないと何もできない
　この身体は戦争のためのもの、私が動くということは戦いがあるということ
　……たまに話に来てくれるだけでいいですから』

「……まあ、いい
　今は先ず、あの古代兵器を駆逐することからだな」

『ええ、1000年前の産物でしたね』

「征こう、イビルフォース
　奴に我々の力を思い知らせてやる
　……未来に進む者の力を！」

『神経回路接続――状態：良好
　戦闘兵器イビルフォース、出撃します
　さあ――行きましょう、カラミティ』

闘争の度、我は此処に訪れた――

此処は107号室、我が陣地。
我の回復から昇華まで、全てを見届けた部屋だ。