ENo.0070　ユリア・クールハート

『ＴＵＲＮ４０：「サヨナラ」だけが人生じゃない』

「これでよし……と」
『ユリア、終わった？　記録とメッセージ送信』
「ああ」
『「トリグラフ」システム内に残っていた無駄なリソースは、全て最適化した』
『「ザヴェーニエ・システマ」も、遠慮無く消してやったさ』
「……………」
『……………』
『どうした』
「いや、お前でもそうやって、愉快そうに笑う事があるんだなって……」
『右に同じく』
『俺とて、嬉しければ笑う時はある』
『だが、この嬉しさは確かに、お前達と共にこの残像領域で歩んできた成果だな』
「そうか」
『ユリアも変わったよねえ。最初はいつも通り不愛想で、他人の事を警戒してたのに』
「いきなり知らない地に放り出されて、警戒しない方がおかしい」
『まあ、それはそうだけど』
『でも、おかげで、僕も知らないユリアを沢山見られたよ』
『あーあ、本当にこの記憶も失くなっちゃうのかあ。勿体無いなあ』
「記憶なら、これからまた、刻めばいいさ」
「そうして、思い出を沢山作ろう」
『わかった』
『そうだな』
「それじゃあ」

　拳をモニタの真ん中に当てる。
　男のくせに細くて小さな手と。
　古い傷痕を刻んだ大きな手が。

　モニタ越しに、触れる。

「『さようなら』は言わない」
『当たり前だよ』
『それはまた今度会った時まで、取っておく』
「そうしよう」
「では、行こう。私達の『トリグラフ』の、最後の戦いだ！」

エピローグ　http://july.main.jp/mist/diary/diaryaa.htm
日記サブタイトル元ネタ出典一覧　http://july.main.jp/mist/diary/diaryzz.htm

Cafe ＆ Maintenance Mer-Millia

巨大樹木の中から、機械の大百足を探せば良い。
その樹の足元に、腕のいい整備士――あるいは料理人のいる店があるのだ。

カフェ＆メンテナンス『メル・ミリア』は、今日も密やかに営業を続けている。
禁忌戦争を生き抜き、霧とともに消えたとされたハイドラ大隊から戻ってきたと噂されている店主は、もはや多くを語らない。ただ、樹木に絡みつくように“眠っている”機械の大百足は、その時の店主のウォーハイドラだとされる。
時々たまに、思い出したように起き上がって、生きているかのように周りを歩き回るのだという。だから、この辺の木の根は金属の多脚にずたずたにされてしまって、あまり真っ当には育たないんだそうだ。店主はそう言って笑っていた。

今日のおすすめは、禁忌戦争で破壊されたと言われる要塞のひとつを模した店主手作りのケーキ。