ENo.0051　アンナロッテ

　なにをどこからどう説明したものかわからない。
　どうしてこうなってしまったのか、私はどこでなにを間違えてしまったのかがわからない。
　こんなはずじゃなかった。
　こんな、こんな、こんな、私が、今更ひとの死にざまにどうにかなっているだなんて。
　ぐらぐらする。音がうるさいんだか聞こえていないんだか、耳はそれでいっぱいで、息もつかえる。
　あの男は、彼は、死んでいる。
　あの男が。
　あの――
『やあ、こんにちはアンナロッテ』
　ぱっ、男の死に体を映していたコンソールが半分になる。半分だけ現れた画面は真っ白に、<<creator>>の緑文字。
『珍しいじゃないか、アンナ』
　声に続きはなかった。私がコンソールを、声の聞こえなくなるまで殴っていたからだ。コンソールが真っ暗になって、操縦棺の中はぼんやりとオレンジ色になる。非常灯だ。
　どうしてこうなってしまったんだろう。
　なにを見るでもなくふらついていた視界が、ノートを見つけた。引っ張り出してみると日記だ。最初の日付も、最後の日付も五年前。
　私が初めてこの残像領域に来たときに書いた日記だった。飛び飛びの日記を読んでいると、今の自分とだいぶ違う。この頃の私は、今の私をどう思うのだろうか。
　日付を書く。最後から五年後。今日より少し前の日付だ。
　ああ、でも、五年前からあの日までのことを少し整理しておいたほうがいい。あの日のことを、今になってよく考えられるように。


　私はアンナロッテ。<<創造主>>（クリエイター）がくれた役名。
　<<創造主>>が何者なのかは知らないけど、人生に嫌気が差して家出した私を、電話やメールやチャットなんかで助けてくれて、あらゆる場所に連れて行ってくれた。残像領域に辿り着いたのも<<創造主>>の手引きだ。
　<<創造主>>には<<創造主>>の目的があって、私はそれに使われる役に過ぎないのだと、そんなような解釈でいた。私は人生に嫌気が差しただけで、特段やりたいこともなかったから、なにがどうなってもいいつもりで。
　そんなわけで私は声しか知らない<<創造主>>に言われるまま残像領域にやってきて、ハイドラライダーとしてそこそこ働いた。霧の晴れる瞬間を戦場で見たひとりだ。
　苛烈な戦いの末、私はいっとき残像領域とは別のどこかへ行っていたような気もするけれど、生き残ってライダー稼業を続けている。

　あの日――あの男、ブラッド・メルヴィルに出会ったのも、最早慣れ親しんだ戦場だった。