ENo.0066　エイジ・アサヒ

　「いや何かもう……本当に……ゴメンナサイ」

　操縦席に正座して、取りあえずどこを向いたらいいのかわからないなりに誠意を尽くそうと
モニタに向かって頭を下げた。

　『そんなに気にしないでください。どのみち誰かに操縦者になってもらわなくてはこの先身動きが出来なかったのですから』

　ひたすら恐縮する俺に、どこかから聞こえてくるナビゲーションシステムの音声はどこまでも優しく
諭すように語り掛ける。……うっ、いいひとだなぁ……。


　思い返せばあれは……合宿スタジオに向かう途中だった。
メンバーと一緒に泊りがけで練習し放題！よし！俺は曲を完成させるぞ！！
……と、意気込んだものの道中の空腹に耐えられず、途中のサービスエリアで焼きそばとフランクフルトと
あと何かテレビで有名だって看板の出ていたメロンパンを頬張りながら、やたら濃い霧の中を歩いて
車に戻ろうとしていた。はずだった。

　これが噂のゴリ夢中……あ、これじゃ運転危ねぇなと思いながら辿り着いた、たしかにここに車を停めて
いたはずの場所には、何かすっごいロボットが座っていた。
えっ？なにこれ？やべぇなどっかのアニメのタイアップ？実寸模型作って展示とかしちゃった系？
霧に佇むロボット……あ、オープニング曲っぽいの出来そう……
そんな事を考えながら機体をぺたぺた触っていると、プシューと音を立てて操縦席？みたいなところが
開いたもんだから、これはもう体感型アトラクション！乗るしかねぇ！このビッグウェーブに！！
え？なに？ぷりーずぷっとゆあはんず？手を置け？ここに？……いってぇ！なんだこれ！いきなり
針刺してきやがった！！！え？れじすとれーしょん？？？？？こんぷりーと？？？？


　……気がついた時には手遅れだった。

　我ながら、勢いに任せて軽率なことをしたなと思う。いやだってかっこよかったんだもんこのロボット……。
男ならさぁ……ある日突然ナンカスゴイロボのパイロットになるとか憧れない？
女だってほら、私が……プリｋええとなんだ、つまりさっき手に何かぶっ刺されたのは
このロボットじゃなかったウォーハイドラの機体登録で、今この瞬間から俺はこいつの操縦士
つまりハイドラライダーというやつになったらしい。
これがアニメやゲームだったらコントローラー片手に気合も入るってものなんだけど
生憎こいつはどうやらアニメじゃない　らしい……。

　「あのぉ……ひとつ、いや沢山聞きたいことがあるんすが……」

　ジーパンでの正座はさすがに足が痺れる……誰に強制されたわけでもなく自発的にやったとはいえ
足を崩すタイミングを逃してしまいもうどうにもならない……。あ、靴はちゃんと脱いだから。

　『構いませんよ、答えられる範囲でよければ。あと、わたしからもひとつ質問させてください』
　「えっ？あっ、はい！なんでしょう？」
　『お名前を。なんとお呼びすればよろしいでしょうか』
　「う～ん……あっ、そうだ。エイジって呼んでくれる？本名違うんだけど何か今、そう呼んで欲しくなった」
　『わかりました。エイジ……質問をどうぞ』
　「ここはどこなのかとかこのロボット……ウォーハイドラだっけ？それのこととか色々あるんだけどまずは、名前教えて欲しいっす」　
　『わたしの……ですか？』
　「うん」

　音声が再生される度にイコライザのようにぽこぽこ波打つ画面が、しばし沈黙を紡ぎ出す。
何か、聞いちゃいけないことだったのだろうかと思いながら痺れる足をこっそりさすっていると

　『私のことは……そうですね。バーツと呼んでください』

　そう、彼は答えてくれた。

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