ENo.0122　クォーツ＝Z

ライトで明るく照らされた白い軽壁に、瘦せた男が身体を預ける様にして立っている。

黒い瞳と同じ色をした軽いクセのある長髪を弄りながら何かを待っている。

そこに響くのは――音、音、音、音、音、音。

機器・計器から発せられる音、何らかの指示を飛ばす声、器具が打ち合わされて擦れる音、数値を読み上げる声、人々の動き回る足音、まるで獣の様な悲鳴……

飾り気の無い研究所(ホール)で音の交響曲を無表情で聴いている男はその場所でただ一人の観客の様に浮いていた。


「…………」


演奏が段々と落ち着き静かになってきた。

慌ただしさは整然とした日常業務(ルーチンワーク)へと移り変わり演目の終わりが伺えた。

男はその日執り行われる実験の結果を待っていた。

　　　＜第六次神経強化施術試験＞

薬物に頼らない神経伝達速度の強化を目的とした素体改造の二段階目、その六回目のテストが終了した。

男がようやく壁際から体を離してストレッチャーで運ばれて来る実験素体の方に歩み寄った。

簡素な服を纏った素体は黒い癖っ髪とやや赤みがかった黒色の瞳が目立つ青年の姿をしていた。

男の目と青年の目が合う――――男は、何かを囁くように話し掛ける。

「……――――……！」



■　■　■　■　■



今日も整備ハンガーは忙しい。

足りないパーツを補う為にジャンク品やスクラップを加工して簡易式の装備をあつらえている。

世界間移動の際の転送コスト削減の為、現在転送されて来ているのは機体の主要部品のみだった。

今次テスト用の武装や機材は順次送られて来るらしいが、果たしていつ頃に揃うのやら。


クォーツはそんな整備班の喧騒を聞いているのかいないのか、虚空を見つめたまま壁際に座り込んでいた。

そんな中で解析班主任が声を掛けてきた。

「前回の戦闘シミュレーションの結果が出た、次回は攻撃的な動きを取るように」

クォーツは頷き――


　　　≪ビーッ！ビーッ！ビーッ！≫


――実戦への出撃を告げるサイレンがそれを遮る様に鳴り響いた。