ENo.0124　灰桜

｢どうでしたか、初陣は？｣

帰還後、整備士の青年が灰桜に問う。

藍白の髪に紺青の瞳を持つ彼は、灰桜が自分の機体を持った時から世話になっている整備士だ。残像領域外から来たと言った時から、何かと気にかけてくれている。名は確か――シィ・リディニーク。

｢まあ、死ななかっただけ良かったんじゃない？｣
｢そうですね。どれだけ訓練を積んでも、初陣で撃墜されて帰れないライダーだっていますし。そんな戦場から生きて帰ってきただけでも凄い事ですよ｣
｢まるで見てきたかのように言うんだな｣
｢それは、まあ。伊達にハイドラとそのライダーに関わっているわけではないので｣

ハイドラを見上げるシィの視線を追い、首を傾げる。機体が、支給された時とは異なる色に染まっていたのだ。　

｢ハイドラの色……なんだかおかしくないか？｣
｢ああ、グリスター・ユニットによる機体の侵食ですね。修復と整備に少々時間を要するかと｣

グリスター・ユニット――領域瞬間霊送箱。チャージが一定量を超えると領域離脱状態となり、あらゆる攻撃の対象にならない、最新鋭の特殊装置。
スポンサーから贈られた機体に積まれたその効果を聞いた時は、まるで魔法だと驚いたものだ。

｢こんな風になるのか……｣
｢侵食を減らしたいなら、ユニットを外しますよ？｣
｢そうすると、今より敵に狙われるんだろう？俺は戦い慣れてないから、あれは生命線になるはずなんだよ。でも、あれを3つも必要かって言うと、俺には判断が難しくて……｣

｢では、パーツを探しましょうか？｣

そう言って灰桜に手渡したのは、様々なパーツが載るマーケットのカタログだった。

「？？？」
(ちょっと難しかったかな･･･)

残像領域、異世界の出身問わず、ハイドラライダーへの各種サービス・サポートを行う小さな企業。
格納庫や整備士の配備もさることながら、ライダーの衣食住も十分なものを提供している。
訓練場を併設しているため、体の鈍りもそこまで心配ないだろう。