ENo.0330　ルーチェ・アーミスト

ルーチェは悩んでいた。
いや、今度は機体や戦果についてではない。
戦果についてはむしろ有り合わせのパーツで良くできたと言ったところだ。
たまたま流れ弾が掠めた程度の機体ダメージで、部隊も半数以上が生還することができた。
問題は住み処である。
ほとんど吹き曝しのような廃屋で過ごしていたため、日暮れから朝に掛けて吹いてくる冷たい風が肌を刺す。

「せめて雨風凌げるとこ探さないと......機体パーツがまだ足りないから収入は右から左だし、このままじゃ人探しの前に私の身がもたないよ......」

体を擦りながら荷物を纏め、まだしっかりと建物として機能しそうな場所を探すために廃屋を後にする。
幸い、一人で住むにはかなり大きな場所ではあるが形をちゃんと留めたマンションののような廃墟を見つけた。
他人が迷惑しなければ今はなんでもいいと、迷わず建物へ入った。

中で荷物を置いてほっと一息ついたも束の間、ルーチェは物音を耳にする。
以前の記憶の中の自分と違い、今は単身。
ならず者に抵抗する手段として持ち合わせていたハンドガンをホルスターから引き抜いてセーフティを外す。
......ﾊﾟｷｯ!
ガラスを踏んだであろう足音に反応し、即座にそちらへ振り向き銃口を向けた。

「うわ、ストップ。待ってー」

気の抜けた少女の声。
銃口の先には両手を上げた、あまり歳に差も無さそうな女の子が立っていた。

「......ごめんね、一人で気が立ってて」

予め武器を持たずに様子を見に来ていることから相手は丸腰と判断し、セーフティを掛け直して銃を収めた。

「私もびっくりだよ。まさかもう取り立てに見付かったのかとヒヤヒヤした」

「取り立て？」

「こっちの話です。ちょっと元所属のユニオンがやらかしてねー」

どうも訳ありのようだ。
しかし今お互いに必要なのは住み処と生活費だ。
会って間もないというのに、双方とも利害の一致を即座に理解する。

「ここは生き残るために協力とはいかないなー？あなたも一人は心細いようで」

「君も私も、住み処もお金も足りてないと......。私はルーチェ。ルーチェ・アーミスト。あなたは？」

流石に名も知らぬ相手と協力というのもおかしな話だ。
まずは自己紹介を、とこちらから名乗る。
相手の少女は端末を弄りながらゆったりした口調で答える。

「風森 砂季でーす。せっかくなんでユニオン登録しとくね」

「あ、うん。......うん？」

まだハイドラライダーという情報は開示していない。
というか彼女はハイドラライダーだったのか、と顔をしかめる。

「いくら協力することになったからって相手に名前教えるの早すぎだよー。私が暴漢だったらこんな距離でセーフティ外しても間に合わないと思わない？」

優しい女の子が相手で良かったねと皮肉を重ねて端末を見せる。
そこにはユニオン登録完了の文字が。
武器の無い相手にとって、こうすれば今殺されれば足がつくぞとマウントが取れることになる。
ルーチェはすぐにその意図に気付いた。

「抜け目無いね......。私が甘すぎるのかもしれないけど」

「まあそれだけ隙だらけならむしろ信用できるってもんだけど。強引になったことは謝るよー」

「いいよ、銃向けたの私だし」

よろしくね、と銃を置いて笑顔で立ち上り手を差し出すと、砂季もようやく薄く笑って近付いてくれた。

「こちらこそー。こんな所が拠点になってしまうけど、その内ちゃんと生活できるようにしようね」

こうして、奇妙な関係から始まった私達の共同生活。
曖昧ながらも背中を預ける存在を作れた、という安心感は、少なからずルーチェの中に居場所を作ったのだった。

だれでもどうぞ。