ENo.0225　ハーヴェイ＝アボット

マーケット。
パーツ作製。
整備。
それらを二の次にしてでも重要な事が、ハイドラライダーにはある。


『ハウジング』だ。


ハイドラキャンプ『サルガッソ』
その居住地区に存在するごくありふれたワンルーム…このままでは『我が家』とは呼べない。
剥き出しのコンクリートと殺風景な部屋もそれはそれでいいかもしれないが、ここを『真の我が家』とするには部屋を飾り付けなければ。
「長い夜になりそうだな。」
なんかそれっぽく舌なめずりをした後、男は愛用のフライトジャケットをハンガーに放り投げた。


先ずは寝具！
腰を落ち着ける度にぎしぎしと軋むベッド！神経質な性格でなくとも気になりそう！でも、これはこれでいい！値段も格安！
食器棚！
可もなく不可もないデザイン！最低限の機能を備えたシンプルさ！それ以上は必要なし！
ラック！
壁掛け用！収容力抜群！広域出品で安く入手！木製なのがいい感じ。
飾り付け用のお皿！
大・中・小からなる使うもよし、見るもよしのお洒落アイテム！皿には昔、流行ったWHの絵なんかが描かれているぞ！中二脚のWHが実に素晴らしい。
その他日用雑貨、TVやラジオといった家電・家具を取り揃えて配置完了。
「なんて『贅沢』で『最高』な時間なんだ…俺は今、間違いなく『充実』している。」
自分の目で選んだ家具。インテリアの数々。それらに囲まれ、この空間は紛う事なき『自室』となった。満足気に微笑む男の瞳に、外の景色が目に入る。
「外も飾り付けたいな…近所に迷惑がかからない範囲で…DRの頭部とか、戦車の主砲とか…。」
漠然と荒野に佇むワンルームをイメージしていたところで、端末が着信を知らせる音と共に赤く灯った。通信だ。
「…誰だろう、スポンサーかな？今回の調査内容はもう伝えた筈だけど。」
不思議に思いながらも作業用のエプロンを脱ぎ捨て、フライトジャケットに袖を通す。
咳払いを挟んだ後、改めて端末に手を伸ばした。

木こりは木を切る。
ライダーはハイドラを駆る。

そんな未熟で欲張りな男の格納庫兼居住地。