ENo.0237　ルート・ロックサイド

　それは限りなく善意から出たものだったのだろう。
ネリーさんはボクが領域殲滅兵器をアセンブルしたことを知ってこう告げた。

「殲滅兵器を使ってみるって言ってたわよね。
　今度それを極めたクビツァって凄腕のライダーと会えるかもしれないから、コツを教えてもらってきたげるわ」

　思わぬネリーさんの言葉にボクは僅かな間、動揺を隠せなかった。
取り繕ってはみたものの、口から発せられた感謝の言葉は、まるで砂漠の朽ち木の様に乾いていた。

　ネリーさんはボクの動揺に気付かなかっただろうか？
…そう思いたかったが、気付かれていると思った方が良いだろう。
セイレーンの名は伊達ではない、普段と違う僅かな言葉の変化も察せられるだろうし、そうでなくとも…耳に頼らずとも。
あの人は雑ではない。
少なくとも、まだ短い付き合いではあるが変化に鋭敏な人だとは察せられた。

…
……
………

　スタニスワフ・クビツァ

　その名は良く知っていた。
彼が先の戦乱で領域殲滅装置という兵器をどの様に扱い名を馳せたのかも。
そして、その後の5年間で酒に溺れすっかり落ちぶれたことも。
だが、どうやら彼は戦いの臭いを嗅ぎつけ、またハイドラライダーとして復帰したようだ。

　彼がレジェンドとしてその技術を伝えてくれるならば、ボクは感謝すべきなのだろう。
彼個人に恨みは無い。

「……。」

　そう自身の心を納得させようとしたが、理屈ではなく感情がそれを否定した。

「ボクが教わるのは、酒浸りのロートルなんかじゃない。」

　戦場で彼より良い戦果を挙げれば、それを証明することが出来るだろう。
ボクは領域殲滅兵器を投げ捨て、彼に勝る戦果を求めるべくアセンブルを組んだ。

　彼は敵だ。
あの一団のメンバーだったのだから。

………
……
…

　着信が有りました。再生しますか？

　ピッ。

「キミの方から連絡をくれたのは嬉しいよ。
　前にも言ったけど、力弱い者同士連携しなきゃならない。
　なにせ、敵は巨大だからね。
　さて、スタニスワフ・クビツァの件だけど…。
　簡単に調査した感じじゃ、バックには何も無いね。
　あの一団は絡んじゃいない。
　確かに彼はあの一団のメンバーだったけど、今じゃただの酒に溺れたオッサンだ。
　戦争の味が忘れられずに参戦して来たんだと思うよ。
　だけど、面倒な存在では有る、コロッセオか何かでチャンスが有れば殺っておくんだね。」

　次のメッセージを再生します。

　ピッ。

「ハイドラには9つの首がありますよね……それは、とても強いことです。
　でも、ドゥルガーには……18の腕と、18の神器があったそうですよ。2倍です、2倍。
　だから何だって？　アハハ……。」

「……これは警告だ。先へ進む為の、な。
　5年前の戦乱よりも企業同士の利権争いは激しさを増した。
　その結果の縄張り争いがハイドラの力を弱めている。
　セイレーンを利用しろ、それが活路だ。」

フブキ・ライダー斡旋商会

　企業とライダー間の契約を仲介することで利益を上げる比較的大手の契約仲介企業。
前身は『サインス人材派遣機構』
5年前の戦乱後、程なくして名前を改めると共に業績を伸ばしてきた。

　企業の需要を満たすライダーの頭数を迅速に集める為、ライダーを欲する企業側の評判は悪くない。
ライダーを斡旋した企業からの謝礼がフブキの主な収益源である。

一方で競合企業からは『倫理が存在しない企業』と陰口を叩かれている。
理由としては、仲介するライダーが犯罪者として指名手配中の人間であろうと、年齢が一桁であろうとも構わず仲介する為である。
ライダー側が最低限の必要な書類さえ出せばOKなのである。

尚、ライダー側には、前述の誰でも簡単契約可能、仲介料と称して過分な手数料を搾取されない、余計な手間である企業との契約調整をフブキが代行するなど評判は悪くない。