ENo.0302　ヨシャファート

　華やかな喧嘩はたしかに楽しい。
　炎が行き交い――異教の神をも思わせる稲妻が――。
　金さえあれば誰でもそれらに手が届く。
　触れられる。
　すべてが粉々に壊れていく様を見るのは愉しい。
　目の前にあるものを台無しに、手のひらに握りつぶす子供の快楽。
　《火の色》はいつだって《愉快》だ。
　それがじっさいの火炎だろうが、何だろうが。
　ある種の火であるには違いない。

　目的というものは難しい。
　なければどうにも締まらないが、あればあったで窮屈になる。
　私はとうとう「死なないこと」を目的としてここまで来た。
　生来の身体のほとんどを捨て去って。

　ときどき思うことがある。
　ここにいる連中の、果たしてどれほどが自分の死ぬことを知っているだろう？
　死亡許容にサインしている彼ら・彼女らは、いったい自分が死ぬことを知っているのだろうか？
　死ぬ、とは――本当はどういうことなのかを。
　ここには幽霊がいる。
　残像が。
　失せ損ねた何かの欠片が、「死なずにまだそこにいる」。

　じっさい戦場に出るまでは、撃墜されて死ぬ人間もそこまで多くはないだろうと思っていた。
　せっかく生き延びる方法があるのなら――まあ、どのみちあんまりいいやり方じゃないが――それを選ぶだろうと思っていた。
　ここにいる連中は、みんな若い。
　死んでしまった私の身体とくらべて、みんな恐ろしく若い。

　……さあ、何の話をしようと思っていたんだったか。
　私は話に寄り道が多くていけないな。
　

「《彼女》が好きだったドラマの名前さ」