ENo.0085　萌え声

リミテッドランキング3位――。
本来なら十分と感じる結果だが、上にいる二人がこの感情に水をさした。

生体電池『下村瘡子E』
鉄檻の『メシア』
コロッセオの名簿にはそのように書かれている。

両名とも脱出装置をマニュアルしながらも必ず帰還する存在。
特に『下村』は絶望的な状況を何度もくぐり抜けた不落を体現する存在。
観客の心を掴まないわけがなかった。

そんな真似はコインの裏が出れば死ぬようなギャンブルだと思った。
二人ともいつか裏が出るだろうと思っていた。
実際に肩を並べ、敵対するまでは。
今は、両名は裏が出ない可能性が高いと思い始めている。

個人的の感情を語るならば二人への印象は非常に良い。
なにを持って救世主と名乗っているのかと気になり、
生体電池と呼ばれている存在がどのような待遇なのかと思いをはせ、そこに少しの同情心を抱く程度に。
二人とも私の愛称とは比べ物にならないモノを背負っているのだろう。

今の立場ではその感情に流されることは許されない。
英雄という存在は私の世界に不要だ。

英雄と非英雄の印象において絶対的な差がある。
数値の差としては僅かであっても、価値としての差は天と地ほども開く。
英雄が存在する限り、私の商品価値は上がることはない。


「――殺すか」
ふと、そんな言葉が口に出た。
そしてその判断は悪くないように思えた。

英雄を英雄たらしめている不落性。
ほうって置いたら英雄であり続けるのならば、私もそこに介入しなければならないだろう。
英雄として肩を並べることはできずとも、英雄を蹴落とすことなら、さして難しいことではない。
機会は十分にあるのだから。