ENo.0042　ジル・スチュアート

原因はわからなかった。

少女に霊障への適正はないはずだった

……しかし、現実に”それ”は起こった。



『心当たりでもあるのか？』

戦いを終えた後のガレージ。
Anubisが、戦場の記録映像を眺める少女に語りかける。

「……確信があるわけじゃないけど、ね」

本来なら不安要素であるにもかかわらず、少女は微かに笑っていた。

『……まぁ、お前が良いのなら構わないが……』

それより――と、少女は半ば諦め口調のAnubisに声をかける。
画面にはちょうど、灰のWHが映し出されていた。

「Anubisは……ロイドのこと、どう……思う？」

考え込むような少しの沈黙の後に、ゆっくりと口を開く。

『……似ている、な。だが……本当に…………？』

『……いや、考えてみればすでに”一度”あったことではあるが……』

「……やっぱり、似てるよね」


しかし、いくら考えても答えが出るわけではない。


―本人に直接問う―


恐らくそれが一番確実であり、一番確かな方法だ。
……そして同時に、相手が何者かわからない以上、一番不安な方法でもあった。

『……その男のことを気にするのもいいが』

頭を抱える少女を見て、Anubisは静かにそう言い大きな指先でモニターを指す。
ふと見れば、戦場の記録映像はすでに終わっており、次の行き先がヒルコ教団から送られてきていた。

『あの教団、よほどあの男を他の戦場に近づけたくないようだな。
　……それとも、他に何か考えがあるのか』

予告された戦場もまた、前回と同じ……いわゆる”残像戦場”といわれる場所だった。
ほぼ全てのWHが残像か、休暇申請を出した無人機で構成されており、戦力的にはかなり乏しい。
……つまり、仮に灰のWHが暴れ狂ったとしても、ほとんど被害が出ることは無い。

『……やれやれ。守るべきものなど、ほぼ無いような場所だ。本当に出るのか？』

少女は苦笑したが、それでも。

「……あはは。……でも、守るべきものは、あるよ」


部隊ナンバー432...Lloydの名前を見つめながら。






それが本当に、死んだはずのリー・インかどうかはわからない。

ただ、5年前にも似たようなことがあった。

死んだはずのリー・インが帰ってきたのだ。

……今回も同じかもしれない。

そう、願いながら。